今回のチップセット黒歴史は、IntelのG965、正確にはG965に内蔵された「Intel GMA X3000」というGPUコアである。が、いきなり核心の説明を始めてもわかりにくいので、まずはここに至る歴史を説明しよう。
PCI Expressの実装に苦しむ
Intel G900シリーズ
「Intel G965」は、Pentium 4~Core 2にかけて利用されてきたP4バス向けチップセットの1つである。このあたりは連載30回で触れている。このIntel 900世代、つまりIntel 915~Intel 975の世代は、P4バスをサポートし、メインメモリーとしてDDR2を利用することになっている。
Intel 900世代最初の製品は、2004年6月に登場したIntel 915/925シリーズで、以下のインターフェース周りの大改革が行なわれた。
- DDR2メモリーのサポート
- AGPを廃止し、PCI ExpressをグラフィックI/Fとして採用
- HubLinkを廃止し、チップセット間接続にDMIを採用
実のところ、この世代で一番問題だったのは、PCI Expressの実装である。当時はやっとCPUが90nmプロセスに移行を始めたばかりで、Celeronなどの下位グレードは引き続き130nmを利用していた。インテルは明言していないが、チップセットはおそらく180nmのプロセスを利用して製造していたと思われる。
180nmプロセスでPCI Expressを実装するのは結構なダイサイズを食ううえに、消費電力も馬鹿にならない。性能改善の観点からはAGPやHubLinkではすでに要求帯域を満たせなくなっていたからPCI Expressへの移行は必然だった。Intel 915/925シリーズは特に(G)MCH側のダイサイズが大きかったようだ。
またICH側(ICH6)も、SATA/1.5Gbpsポート4つを搭載するほか、DMIのためにPCI ExpressのEndpoint機能を実装する必要があり、こちらもかなりダイサイズが肥大化したと思われる。
このあたりは、消費電力を比較することで間接的ではあるが推察が可能だ。DDR-SDRAMとAGPの「Intel 865PE」のTDPは11.3Wであり、対してDDR/DDR2-SDRAMとPCI Expressの「Intel 915P」のTDPは16.3Wになる。差が5Wというのはチップセットとしては馬鹿にならない。比率としては50%増加したことになるので、これはPCI Expressの実装がかなり苦しかったことを忍ばせる。
こうした結果、なにが犠牲になったかといえば、TDP以外にグラフィック性能が挙げられる。正確には、グラフィック統合型チップセットにおけるグラフィック性能だ。
GPUを内蔵しないMCHであってもPCI Expressを搭載することでダイサイズが肥大化している。したがってグラフィックを統合すると、さらにダイサイズは増えることになる。
ところが、グラフィック統合型チップセットはこの当時、どちらかというとメインストリーム~バリュー向けという位置付けだったため、そうそう価格は上げられない。実際Intel 865世代のチップセット価格は以下のようだった(関連リンク)。
チップセット | 価格 |
---|---|
Intel 865E | 33ドル |
Intel 865PE | 36ドル |
Intel 865G | 41ドル |
※:Intel 865Gの価格は、RAID機能なしのICH5との組み合わせの場合。
そしてIntel 915世代では以下のようになっている(関連リンク)。
チップセット | 価格 |
---|---|
Intel 915P | 37ドル |
Intel 915G | 41ドル |
グラフィックを統合しない915Pが865PEと比較して1ドル上がっているのは、やはり原価が上がっている(≒ダイサイズが大きくなっている)と考えられる。それにも関わらず915Gの価格が865Gと変わらないのは、41ドルというのがマザーボードベンダーに受け入れられるぎりぎりの価格であることを示唆している。
ところが確実にダイサイズは増えているわけで、もちろん利幅を下げたのだろうとは思うが、それよりもダイサイズの肥大化をぎりぎりまで抑えなければならない。すると犠牲になる対象はグラフィックコアということになる。
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