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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第121回

電子回路の持つ「固有の音楽」とは?

中古のオモチャが楽器に!? 誤用から生まれる音

2013年05月11日 12時00分更新

文● 四本淑三

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誤用で始まる音の変化もまた楽器の始まり

スピーカーに電池を接続し、そのオンオフを金属製のフックの接触で行なう仕組み。スピーカーが振動すると断続が連続して発振する

―― この本の表紙のスピーカーだ。

船田 ここからプリミティブな電子回路に進んでいくんですよ。これ以上、原始的な発振回路はないというレベルで。完全に電池をショートさせてるだけ。スピーカーメーカーの人が見たら仰天しますね。

―― 電池つなぐとブリブリ鳴るけど、これ、どういうことなの?

船田 通電してコーンが動くと、一瞬このフックが外れるじゃない。そしてまたくっつくじゃん。そしたらまたコーンが動いて外れるじゃん。その繰り返し。

―― 電源の断続で発振しているということか。

船田 電気を流しただけだと音にはならない。断続的に流せば音になる。その断続を作る方法は何でもいいよと。このフックも、その本にはビールのプルタブとか書いてあるけど、アメリカみたいなタブはなかなか手に入らないから、こっちで工夫したわけ。これが原始的な電子楽器?

―― 発振器かな?

船田 その後、この本では延々発振器を作り続けるんだけど、この本の中で電子工作らしい電子工作は、これね。この本の中ではフォトレジスターと言っているけど、CdSと安い古いデジタル回路用のチップを使って、発振回路を作る。

ヘックス・インバータとCdSを使ったポリフォニックな発振器

―― 大きさの違うCdSが6つありますな。

船田 そうすると偶然のハーモニーが出るよと。光を周波数に変えているわけ。演奏性があるのよ。

―― いろんな周波数の音が混じっているから、モジュレーションしているように聴こえるね。このチップは?

船田 このICの中に発振回路に使える素子が6個入っている。これはいわゆるロジックICのひとつで、ヘックス・インバーターというんだけど、NOT演算をするんですよ。Hiを入れるとLoが出るというIC。それをフィードバックさせて、信号を遅らせてやると発振するわけですよ。つまりデジタルもアナログも、俺達にかかっちゃ同じだぜ、みたいな。発振さえすれば楽器になるという。

―― つまり誤用だよね。

船田 誤用です。これははっきり英語でも誤用と書いてありました。その本に載っているものを、船田なりにアレンジしてこうなったというものなんだけど、回路図的にはまったく同じ物が本に載っています。なので自由にCdSの位置や大きさを変えてアレンジして、自分なりの楽器を作ってみようと。

指をかざしたり光を当てたりするとピッチが変わる。6つある発振器のピッチ変動幅がバラバラなので、強烈なモジュレーションがかかっているように聴こえる

―― これはCdSを遮光したチューブに入れてやると、普通に弾けそうだよね。

船田 そう。あとはフラッシュを当てるとかね。LEDで発振している信号を光に変えてやると、光のフィードバックが起きるので、さらに複雑なモジュレーションがかけられるようになるとか。

―― いろんなテクニックを組み合わせると、欲しい音も得られると。

船田 この本で言う楽器を作るということは、つまりこういうことなんです。回路と原理、ベーシックなものを提供するから、あとは自分の気に入ったものにしてみようと。見た目に凝ってもいいし、演奏性を高めてもいいし。その過程で楽器とは何かを、自分なりにもう一回考えてみようということだね。

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