DAC部分はアシンクロナス方式でジッターを排除
―― 電源以外の音質に関わる部分で、NANO-UA1は「ジッターフリーを実現した」とあります。まず、このよく聞くジッターとは何ですか?
川崎 必ず音源には時間軸のブレが起きています。信号がちょっと早まったり、遅くなったり。
―― アナログ時代のワウフラッター(レコードやテープの回転ムラ)のようなものと考えてもいいですか?
川崎 そうです。デジタル信号を扱う上で、ジッターはできるだけ少ないほうがいいんです。それが最終的な音に影響することは分かっていますので、デジタルからアナログに変換する前に、時間は揃えてあげたい。
山本 それで、もう一回クロックを作り直すわけですね。幸いなことに情報が入っているんです、それを作り直せるような情報が。
―― それぞれのデータに、本来あるべき位置というのが記録されていて、正規の場所に置き直してあげると。
川崎 そうです。例えばベルトコンベアーの上にりんごを均等の間隔に並べて送り出していても、もらったときには1個1個の間隔が広かったり狭かったりする。でも、りんごの数は変わらない。それでりんごをもらった方が、同じ間隔に並べ直してあげるわけです。
―― 音源側のクロックで動かすか、コンバーター側のクロックで動かすかという話ですね。
川崎 シンクロナス(同期)タイプと、アシンクロナス(非同期)タイプという呼び方をしていますよね。シンクロナスは上流のクロックを活かして使う。アシンクロナスは上流のクロックを遮断して、この中のクロックで動かす。これは後者の方法で処理しています。
山本 シンクロナスだと安く作れますけど、ジッターはそのまま入ってきてしまうんです。
川崎 入ってきた信号をサンプリング・レート・コンバーターというのを使って変換することによって、クロックを切り分けることができる。問題はそれによって音質が影響を受けるわけですね。
デジタルでも理屈では分からない音の違いはある
―― そこは高いチップを使えばいい、という問題でもないんですか?
川崎 そういうわけでもありません。何を選ぶかと同様、同じディバイスを使うにしても、どういう回路で使うか。それによって音は変わってきます。基板上を信号線や電源線が走ったりするので、その引き回しによっても音は変わってきます。※2
―― デジタルアンプでも、アナログ的な手法は効くということですか?
川崎 ええ。デジタル回路と言っても、オーディオの場合は信号が回路の中で影響しあったり、ノイズの対策も必要になる。だから同じチップを使ったから同じ音がするかというと、まったくそういうことはないんです。そこは本当にノウハウの部分ですね。
山本 アンプでも、ネジを1本緩めたものと締めたものを2台置いて、切り替えて聴かせると違うということが起きる。設計者はその違いを比べて、どっちがいいか判断しなければいけないんですが、そんなの測定したって出てこないんです。
―― じゃあ理屈にならないところもかなりやられている?
山本 むしろそっちの方が多いくらいですよ。
川崎 もちろん設計は理屈でやっているんですが、最後の音の作り方は測定器では分からないことがほとんどです。それに、立派な測定器で測定したからいい音というのでもなく、我々が住んでいる環境でいい音がするものを作らなければならない。オーディオメーカーなのに試聴室がないとか、スピーカーもこれだけしかないとか珍しいかもしれないけど。
―― ということは、ここでテストしているんですか?
川崎 ここでもしますが、みんな土日に持って帰って、自分の家で。200万円クラスのアンプと比べてどうか、とか。
山本 家といっても、もう何十年もオーディオをやっていますから、普通の試聴室よりいいくらいです。
―― さすがです。
※2 NANO-UA1に使われているチップは、サンプル・レート・コンバーター「SRC-4392」、DAコンバーター「Ti PCM1792」、IV(電流-電圧)コンバーターとヘッドホンアンプ「 OPA2132」 、デジタルアンプ「TPA3118」

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