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ThinkPadの父・内藤在正氏に聞く、“これまでのThinkPad”と“これからの20年” 第2回

ThinkPadはなぜ日本で作られたのか(中編)

2012年12月23日 12時00分更新

文● ASCII.jp編集部、写真・構成●小林 久

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伝統を守りつつ、新しいことに取り組んできた20年

遠藤 「僕もね、ThinkPad s30をはじめとして色々な機種を使ってきたんですよ。ThinkPad 200、220、240、600、T20、X40……。特にThinkPad 600はキーボードのつくりがすごく評価された機種だけど、同じキーボードでも筐体が違えば、触った印象が違うっていうのがありましたよね。

内藤 「ThinkPad 600のあのキーボードが良かったって皆さんに言われますが、あれは実は、真中に大きな電池が必要なんです。重い石の上にキーボードが載せてあって、それが安定感につながる。その後の機種では、スタッドでキーボードを支えるようになったんですが、キーボード自体は完璧に作っても『ここが柔らかい』『こっちがフカフカする』っていう時代が多少ありました」

遠藤 「ThinkPadユーザーにはうるさい連中が多いからなぁ」

内藤 「売るからには怒られて当然なんですが、キーボードだけ見ても打鍵感は分からない。だから組み込んだ状態でテストする、最適なカーブが実現しているかを確認する方針に変えたんですね」

遠藤 「一方で数値化できない合理性っていうのがThinkPadの魅力とも言えますよね」

── 特にデザイン的な意味での合理性は取材を重ねる中で記者としても勉強させてもらった部分が大きいです。例えばThinkPad 570で採用されたC面カットとか、重心に配慮して実重量よりも軽く感じさせる……など。

内藤 「デザインに関しては、2000年ごろまでずっと上下が平行なんです。くさびを始めたのはおそらく2000年の秋が過ぎてからですね。当時いろいろな理由で、弁当箱のスタイルを変更する必要が生じていました。例えば、空冷機構をもう少し薄くしたいけど、厚くせざるを得ないとか。

ThinkPad 701CのTrackWrite

 ThinkPadは弁当箱から始まっているし、エンジニアや僕の頭も『平行じゃないといけない』という固定観念にとらわれていた面がありました。そんなときに、去年亡くなったジョン・カリダスっていう“バタフライ”(TrackWriteと呼ばれる、ThinkPad 701Cのキーボード収納機構)を考えた男が、『じゃあ俺が3ヵ月くらい大和に行くから、クリーンシートでやろうよ』って言い始めて……。

 クリーンシートとはいままでのしがらみを白紙にして、自由な発想で作ろうってことなんですが、彼はやはり偉大ですよね。『なぜ前と後ろが同じ高さじゃないといけないの? 誰が決めたの!』って。『こうすれば薄くなるし、しかもキーボードもスラっとするし、何がおかしいの』と。それがきっかけになってくさび形の筐体が採用されたわけです」

最高のノートブックを支えた、厳選された素材

遠藤 「よく見ると現行機種のThinkPad X1 Carbonの天板も軽くアールが付いてますよね」

内藤 「天板のドームはまた別の理由で始めたものです。押し付ける力に対して液晶を守るというか。パネルの中央を傷めないために少し太くしないといけない。でもその厚みを縁の部分までフラットにしてしまうと、ものすごく厚い機械になってしまう。でもフレームの部分は丈夫なんで、厚さは不要なんですよ。開発当初は『ここを2mmも上げるの? 格好悪いんじゃないか』っていう意見もあったんですが、黒い筐体ということもあって、印象は変わらないんですよね」

遠藤 「確かにこれなら、真ん中のほうが厚いことに気付かない人も多いかもしれない」

内藤 「過去のThinkPadではディスプレーのかみ合わせの部分を厚くしてガッチリと堅牢性を保った機械も多かった。ThinkPad X1 Carbonは厚くないですよね。そのために、ものすごく高級なカーボンを使っているんです。ここは板なんです。カーボンファイバーを何枚も重ねた板を作る。その周囲を樹脂で固めてくさび状に削ります。無線LANなどの電波が通るようにするという意図もあります。

 東レさんのカーボンファイバーにもいくつかの種類がありますが、これは人工衛星などにも使う最上位のグレードにしています。ThinkPadはずっと前からカーボンを筐体に利用していますが、今と昔ではカーボンも大きく変わっていて、同じカーボンといえないぐらい違う」

── ThinkPadは、素材も先取りしてきた印象があります。例えばマグネシウム合金も早くから活用していた。ThinkPad 220は黒く塗装されていましたが、マグネシウム合金を利用した薄型ノート(VAIO 505など)が流行になるよりずっと前の話でしたよね。

内藤 「当時のモールド技術は、たいへん怖い技術だって言われていて。すぐに冷えてしまうんで、溶けたマグネシウムをいかに速く型に流すかという話になる。速く入れられないなら、分厚い隙間を作るしかない。すごい圧力で射出するんで『あれは、そばにいるとホント怖いくらいの技術なんですよ』って当時は言われていましたね。今は大丈夫だと思いますが」

後編へ続く

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