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ThinkPadの父・内藤在正氏に聞く、“これまでのThinkPad”と“これからの20年” 第2回

ThinkPadはなぜ日本で作られたのか(中編)

2012年12月23日 12時00分更新

文● ASCII.jp編集部、写真・構成●小林 久

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交換可能なハードディスクとカーボン

── 3点セットというお話が出ましたが。

内藤 「A4サイズにカラーTFTを入れるというのが1点目、TrackPointが2点目、そして3点目がパックに収納して、ハードディスクを取り外し可能にすることでした」

遠藤 「ハードディスクはね。当時は相当に壊れやすかったですからね」

内藤 「はい。壊れやすいというのもあるのですが、当時は半年でキャパシティー(容量)が倍になる時代でした。20GBで出荷してもすぐに40GB、40GBが80GB……という感じです。そこで前面からHDDを引き抜き、交換できる仕組みをThinkPadに入れたんです。HDDのケースはネジ1本だけで留めてあって、コネクターもスライドインにするという形」

遠藤 「ムーアの法則以上のペースで、HDDの容量が進化していたわけですね。HDDはまったく交換できないメーカーもあったから、これも当時としては画期的だったと思います」

内藤 「4点目は、実はこっそりとカーボンファイバーを中に使っていることです。その歴史の中で、カーボンを要所要所で使い続けてきている点もThinkPadの特徴なんです」

遠藤 「僕が昔使っていたThinkPad T20も天板にCFRPを使っていました。その表面の質感からカーボンを使っているという点を主張してましたよね」

内藤 「ああ、あれはね。カーボンそのものの質感じゃなくて、チタニウムの粉を混ぜて、敢えてチカチカ光るようにしてるんですよ。カーボン本来の質感ではなく、ペイントですね」

遠藤 「そうなんですか!? 初代のThinkPadではどこにカーボンを使用されていたんですか?」

内藤 「当時は真ん中にバッテリースロットが置かれていたんですね。それ以外にもFDDがあって、HDDがある。つまり3つの穴が開いているから、そのまま作るとフニャフニャになっちゃう。そこでカーボンをガチっと入れた構造体を作ることにしたんですよ」

それではキーボードは?

遠藤 「ThinkPadというと、キーボードという印象がありますが、初代のThinkPad 700Cでは特別な試みを実施していないのですか?」

内藤 「キーボードに関しては、米持(レノボ・ジャパン執行役員常務の米持 健信氏)を筆頭に、ThinkPad以前から継続して取り組んできた部分なので……。当時のデスクトップは、4mmもストロークがあって束で入っているスプリングがカッツン、カッツンと動く。いま触れると、かえって打ちにくい印象を持つくらいです。

 このクリック感をどう再現しようかという課題があった。今の機械はもっと浅いんですが、当時のノートで言えばストロークは3mm。そこでどうやってクリック感を出すか。米持をはじめとした開発陣が、そこに自分の想いをこめてやっていました」

遠藤 「キーボードは専業のメーカーがあって、そこに発注すると思うのですが、自社内でもかなりのノウハウがあったと」

内藤 「チューニングはかなりやっていましたね」

遠藤 「当時のコンピュータは使っている時間=キーボードを使っている時間みたいなところがありましたからね」

内藤 「それは今でもそうでしょう」

遠藤 「それはそうですが、どちらかというとグラフィカルな方向に進んでますよね」

内藤 「ああ、画面をご覧になっている時間が増えましたよね。昔はそういうものがほとんどなかったから」

遠藤 「そうそう。だから打つことが仕事みたいな側面があった。僕らから見ればThinkPadのキーボードは大きな特徴だけど、開発者から見れば、ある種当たり前のものだったってことなんですね」

内藤 「そうですね」

遠藤 「ストロークの話が出ましたが、サイズも重要ですよね。18.5mmとか19mmとかピッチの話に加えてレイアウト。国内メーカーでは、利用頻度の低いキーは変な場所に追いやられたりとかっていうことも少なくないですが」

内藤 「日本のユーザーは、かなり許容度が高いんですよね。ただアメリカ……というよりはワールドワイドでは、皆さんがタッチタイプで使うので、指が当たったところが違うのはありえない。だからずっとフルサイズにこだわってきました」

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