ARMは去る10月30日~11月1日(現地時間)に、米国サンタクララで「ARM TechCon 2012」という開発者向けイベントを開催。ARMの新しい64bitコアである「ARM Cortex-A57/A53」コアを発表した。
このCortex-A57/A53のライセンシーには、AMDが名を連ねている。それもあってか、AMDは10月29日(同上)に記者説明会を開催し、Cortex-A57/A53を採用した製品を、2014年に投入することを発表した。こうした理由により、急激に注目の高まったARMの新64bitコアについて今回は解説する。
最新版アーキテクチャーARM v8は
2011年10月に完成
ARMプロセッサーについては、ほぼ2年前の連載82回と83回で解説している。当時はまだ、現在最新の「Cortex-A15」コアが発表されたばかりで、「Cortex-A7」はまだ未発表だった。
ARMという企業はこれまで、まず命令アーキテクチャーを定めてから、次にそのアーキテクチャーに対応したCPUコアをリリースする、という順序で新製品を投入してきた。実際、82~83回の記事で披露したロードマップ図は、これを忠実になぞったものである。
細かい話をすれば、初代の「ARM1」や続く「ARM2」「ARM3」といった製品は、アーキテクチャー開発とコア開発がほぼ同時期であった。しかし「ARM v3」に属する「ARM6」コア以降の製品は、これを忠実になぞっている。
82~83回で解説したのは「ARM v7」までの話だった。ARM v7とは高性能な32bitコアを構築するためのアーキテクチャーと、命令セットを定めたもの。これを実装した最初のコアが、「Cortex-A8」ということになる。ここで言うアーキテクチャーとは「CPUの持つメカニズム」という意味で、例えばキャッシュやTLBの容量や構成、レジスタ数や割り当て方、あるいは開発中に利用するデバッグ用インターフェースの仕様などが、アーキテクチャーに属する。こうしたものを厳密に定め、これに反する構造を認めないことで、ソフトウェアの互換性を100%に保つことが保障されるというわけだ。
ARMアーキテクチャーの最新版は「ARM v8」である。ARM v8の仕様は2011年10月に完成しており、このARM v8のライセンス(俗に言うアーキテクチャーライセンス)を取得した半導体メーカーには、即時公開されている。それ以外の外部に仕様が公開されたのはもう少し後の話だし、アーキテクチャーの全部が公開されたわけでもない。2012年7月には、ARM v8命令セットの概要を記載したマニュアルが公開されており、特にコンパイラーなどのツールを作成するソフトウェア開発者は、これに基づいてARM v8に準拠した開発ツールの開発を始めることが可能になった。
こうした流れは、例えばAMDの「x86-64」や「SSE5」、インテルのSSEやAVXなどでも共通する流れである。まず命令セットを早い時点で確定させて、それを公開するとともに、必要ならばエミュレーターなども公開する。それにより、実際にその命令を搭載したCPUが世の中に出る「前に」、ソフトウェアの開発を可能にする。結果として、実際にその命令を使ったアプリケーションが、そのCPUの登場後、即使えるようになるわけだ。
もちろんAMDやインテルと、ARMの場合はちょっと事情が違う。AMDやインテルのCPUはCPU単体でも発売されるから、発売後はすぐにユーザーの手に渡る。一方ARMの場合は発売といっても、それはARMを搭載する機器ベンダーに「コアの設計図(IP)が渡される」という形になる。そこからIPを搭載したLSIを設計、製造するのに半年から1年以上かかり、そのLSIを搭載した機器の設計にはさらに1年以上がかかる。つまりユーザーの手に搭載製品が渡るのは、IPが渡されてから2年以上先の話になるのだから、インテルほど急いでアプリケーションをそろえる必要はない。
ただ、昨今のARM搭載機器の場合、アプリケーションの開発も以前よりずっと時間がかかるようになっている。市場への投入期間短縮のためにも、LSIの製造と並行してOSやアプリケーションを開発するのが一般的になっているため、やはり早い時期に命令セットが明らかになるのは、望ましいことである。
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