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西田 宗千佳のBeyond the Mobile 第104回

モバイルノートのようで新しい、LaVie Yに見るWindows RT

2012年11月15日 12時42分更新

文● 西田 宗千佳

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 Windows RTは付属のOffice 2013 Previewを除くと、Windows 8とのアプリ互換性は、Modern UI(編注:Windows 8スタイル)、すなわち「Windows Storeアプリ」のみとなっている。しかも、Windows 8用に公開されているWindows Storeアプリのすべてが動作するわけではない。既存のWindowsアプリ(Win32 APIで作られたデスクトップモード用アプリ)はまったく動作しない。仮にARM向けにコンパイルしたとしても、その実行バイナリーをWindows RTマシンに組み込む方法は、今のところない。

 だから、Office 2013とWindows Storeアプリ以外が必要な場合、Windows RTを「同じWindows」と考えるのは難しい側面がある。この点はやはり注意せねばならない。

 だが、である。それでもWindows RTを使ってみると、あまりに「Windowsである」ことに驚く。それはInternet Explorer 10(しかもFlashも使える、PCと同じものだ!)が使えて、ファイル管理も慣れたWindowsそのままである、ということによる部分が少なくない。エクスプローラー上ではZip圧縮にZip解凍もできる。

 同じアプリが使えず、ワークフローの再構築が必要という意味で、Windows RT機と他のタブレットは似たところがある。AndroidにしろiOSにしろ、「メールの添付ファイルを取得して、解凍して別の人に一部をメールする」といった、PCでは当たり前にできることをやろうとするだけで、最初はけっこうな工夫がいる。できないわけではない。PCとはワークフローが異なるだけだ。しかし、その手間はそれなりに大きく、すべての人に勧められるものではない。

 しかし、そういった「PCで当たり前にできること」の多くが、Windows RTでは普通にできる。ブラウザとOS、Officeで仕事が完結する人ならば、通常のPCとの差はほとんどない、と言っていい。

 もちろん「Office以外のアプリ」の問題はあり、そこに必要なものがない限り、Windows RTであることはリスクである。具体的な例では、画像編集ソフトや使い勝手のいいSNSクライアント、テキストエディターくらいは必須と思う。

 だが、ライバルをPCでなく他のタブレットだと考えると、ビジネスワークフロー構築という観点で言うなら、やはり「Windows」である利点はきわめて大きい。よくぞここまで、違うCPUアーキテクチャーの上で、パフォーマンスを変えずに同じ環境を実現できたものだと思う。LaVie Yが「普通のモバイルノート」であるのは、こうしたWindows RTの特性と、かなり類似性を感じるのである。

「タブレットより重い」ことはマイナスか
ノートPC離れした駆動時間が最大の魅力

 他方で、「普通のモバイルノート」に見えることが、LaVie Yの限界とも思う。

 ARM系CPUを使ったタブレットの多くは、10インチクラスで重さ600g程度。キーボードがあるとはいえ、LaVie Yがその倍の重量というのは、さすがに大きい。タブレットに外付けキーボードを持ち歩いても、1kgは切る場合がほとんどだから、少々重すぎる。「普通のPCではない」のに、普通のPCくらいの重量であるのは、逆に差別化の点で問題だと思う(と言っても、x86系であれば納得できる程度に軽量ではある)。

 もちろん実際に使ってみると、やはり「このサイズのPC」とは大きく違う面もある。なにより違うのはバッテリー駆動時間だ。Windows用のベンチマークプログラムが使えないため、バッテリー駆動時間はYouTube動画の連続再生時間で計測したが、「輝度50%・無線系はすべてオン」の状態で使って、5時間動作させた状態でも、バッテリーは52%残っていた。

 カタログ上では「フルHD動画再生で約8時間、無線LANでのインターネットアクセスで約8時間」となっているが、それよりもさらに長く、10時間程度は動きそうである。しかも、スリープで放置した状態でのバッテリー消費も、1日で10%に満たない程度であった。特別な発熱もなく、そのあたりもx86系との違いを感じる。

 このレベルであれば、「1日に数時間の外出」という人の場合、2~3日に1度の充電で十分かもしれない。10インチクラスタブレットをビジネスに使った場合にも、そのくらいのイメージで使えるのだが、そこはPCとは違う「気楽さ」がある。普通のモバイルノートに見えるのに、よりタブレットのような気分で付き合うことができるのは魅力と思える。

 最後にまとめだ。Windows RTであることは、やはりLaVie Yにとって善し悪しがある。アプリのないコンピューターの用途には限界がある。「Office+IE+Windowsシェル」という強力な武器があるものの、現状のアプリの充実度では厳しいものがある。「自由な使い方」を目指すならまだ選びにくい製品だ。

 だが、「四六時中モバイルで使うのではないので、バッテリーのことを気にしたくない」のであれば、こういう製品であるべきだ。PCとタブレットが融合した時の使い勝手を思わせる。気になるのは、x86アーキテクチャーである「Atom Z2760」(コード名 Clover Trail)の機器なら、消費電力もパフォーマンスもかなり近づいているのでは……という点だ。そこは、実際に比較してみなければわからない。

 可能性はあるし、使ってみれば独自の価値もある。だが、同じWindowsの中のライバルとの位置付けがまだ見えない。そこに、この製品を選ぶ難しさが存在する。

お勧めする人
・バッテリー駆動時間を気にしないノートが欲しい人
・ビジネスツールとしてのAndroidやiOSになじめない人
LaVie Y LY750/JWの主な仕様
CPU Tegra 3(1.3GHz)
メモリー 2GB
グラフィックス CPU内蔵
ディスプレー 11.6型ワイド 1920×1080ドット
ストレージ SSD 64GB
無線通信機能 IEEE 802.11b/g/n、Bluetooth 4.0
インターフェース USB 2.0×2、HDMI出力、SDメモリーカードスロットなど
サイズ 幅298.0×奥行き204.0×高さ15.6mm
質量 約1.24kg
バッテリー駆動時間 約8時間(フルHD解像度の動画再生時・無線LAN接続でのウェブブラウジング時)
OS Windows RT
予想実売価格 9万円前後
発売日 11月22日

■関連サイト

筆者紹介─西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に「電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「災害時ケータイ&ネット活用BOOK」(共著、朝日新聞出版)、「形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組」(エンターブレイン)、「リアルタイムレポート デジタル教科書のゆくえ」(TAC出版)、「スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場」(アスキー・メディアワークス)、「漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)。 最新刊は「ソニーとアップル 2大ブランドの次なるステージ」(朝日新聞出版)。

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