x86とは違うARMプロセッサーの基本
SurfaceはWindows RTのためにマイクロソフトが開発したタブレットで、CPUにはARM系プロセッサーであるNVIDIAのTegra 3を搭載している。ARM系のプロセッサーは、プロセッサーコアの基本設計をARMが行ない、半導体メーカーはそのライセンスを受けて、周辺回路と合わせて「SoC」(System On a Chip)を開発するのがセオリーとなっている。
Tegra 3はARMアーキテクチャーのCPUコアを4つ搭載し、同社のGPUをモバイル向けに改良したものと組み合わせてSoCを構成している(関連記事)。GPUは低消費電力のGeForce(7世代目のものがベースといわれている)を搭載しており、GPU内部コアは12個と言われている。
このTegra 3に採用されているCPUコアのアーキテクチャーは、「Cortex-A9」と呼ばれるものだ。ARM系プロセッサーとしては初めて、アウトオブオーダー機構を取り込んだプロセッサーであり、ARMの資料によれば、1.66GHzの「Atom N570」と1.4GHzのCortex-A9の性能が、ほぼ同等とされている。そのためSurfaceの性能も、Atomを採用したタブレットと同じくらいと考えていいだろう。
最近のARMプロセッサーには、すべて「Cortex」というブランド名が付けられている。基本的に、ARMの定義する「ARMv7」アーキテクチャー(命令体系)以降に準拠したプロセッサーは、すべてCortexブランドである。それ以前は、「ARM11」や「ARM9」といった番号と略号で、プロセッサー設計を区別していた。しかし区別がわかりにくかったため、ARMv7世代からは用途に応じて、「A」(Application)「R」(Realtime)「M」(eMbedded)の3つのタイプを作りわけて、簡単に区別できるようにした。
Cortex-Axの後ろの数字は、登場順に付けた番号ではなく、基本的に性能を表わす。数字の大きいものほど性能が高い。例えば、Cortex-A7はA9よりも後に発表されているが、性能はA9のほうが高い。ちなみに、Nexus 10に採用されているCortex-A15は、A9の倍程度の性能を持つと言われている。
Cortex-A9をx86 CPUに例えると、Sandy BridgeやIvy Bridgeといったマイクロアーキテクチャーと呼ばれるものに相当する。これに対してARM CPUのアーキテクチャー自体は、ARMv7(ARMアーキテクチャー Ver.7)といった呼び名があり、命令体系などが変化することでバージョンが変わっていく。
ARMv7は32bitアーキテクチャーで、物理的なメモリー空間は4GB。ただしARMプロセッサーは、I/Oをメモリーに割り当てている。その割り当て方法はSoCメーカーに任されているのだが、通常は4GBのうち、最初の1GBに起動用ROMやフラッシュメモリーを配置して、次の1GBに周辺機器などを割り当てる、例えばビデオメモリーなどはこの空間に配置される。残り2GBにソフトウェアが使うメモリーを割り当てることが多く、そのため大半のARMプロセッサーシステムでは、いわゆるメインメモリーは最大2GBが多い。
ARMはCPUの設計を行なうだけだが、TSMCのようなファウンダリー(半導体製造企業)と協力して、製造プロセスに適合したデバイス(おもにマスクパターンなど)を開発する。これを「ハードマクロ」と呼ぶ。NVIDIAのTegraシリーズの場合、内蔵GPUなどCPUパッケージの中に何を入れるのかはNVIDIAが設計しているが、CPUコア部分はARMとTSMCが開発したハードマクロをベースにしている。このようにしてSoCメーカーは、複雑なプロセッサーコアの設計や製造にコストをかけることなく、自社のSoCを開発できるわけだ。
Windows RTでは、当初3つのSoCメーカーが選定され、SoCメーカーとPCメーカーが対になって、Windows RTマシンを開発する予定になっていた。SoCメーカーはNVIDIAのほかに、クアルコムの「SnapDragon」とテキサス・インスツルメンツの「OMAP」があった。しかし、実際に早期の時点で出荷されるWindows RTマシンは、NVIDIAかクアルコムのSoCを搭載する製品のみとなる。
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