文芸家でもなく、論文を手書きするタイプでもなく、もちろん小説家のように原稿をペン書きする習慣があるわけでもないが、筆者はなぜか「万年筆」には強く惹かれることが多い。必ずしも高価な筆記具に憧れる訳でもなく、安価な筆記具が大好きだという訳でもない。それゆえ、自室の机の周囲には、常に多くの筆記具が溢れ、ボールペンやマーカー(ハイライター)の半分以上は使い切るよりも前に、内部のインクが乾燥したり、凝固したりして使えなくなってしまうのが日常だ。
放っておくだけで、普通なら内部のインクが自然乾燥しやすいことや、頻繁に使わないとペン先が鈍ってしまいそうな万年筆は、筆者にはもっとも向かない筆記具の代表のように思う。しかし、奇術のようにペン先から出てくるインクの流れや、ペン先の太さを選び、自由にインクのカラーを選択できる魅力は、ボールペンやシャープペンシルとはまた別の楽しみを与えてくれる素晴らしい筆記具に思えてくる。
加えて、筆記する紙面要素との相性がもっとも顕著に現れてくるのも、伝統的な筆記具である万年筆の大きな特徴だ。そんなこんなで、ウンチクを傾けだしたらワインと同じく、キリがないほど多くの自称評論家やそれを遥かに超えたペン学者、万年筆博士、ウンチク仙人まで、世話好きで小うるさそうな輩が山ほど登場してきそうな、噂の万年筆をつい衝動買いしてしまった。
元来はドイツ語なので、無理矢理、日本語の読み仮名を割り振るのが正しいのかどうかは置いておいて、衝動買いした万年筆の名前は「マイスターシュテュック149」(以下、149)というドイツらしい名称だ。筆者にとって筆記具の目的は、思いついたアイデアや発想を瞬時にメモすること。筆記具には、書き出しから決してカスレず、ハッキリした太さで、自由にスラスラと書けることが1番の条件だ。
それゆえ、万年筆もボールペン同様、「B」(Bold:太字)が好みなのだが、国産の万年筆は「B」と規格上は分類されていても、実際には海外製のM(中字)よりも筆跡の細い製品がたくさんある。149にはそのあたりの太~い筆記感覚を求めて、ネット上で少し慎重に情報収集し、しかし、現物で試し書きすることもなくいつものように勢いで購入した。
「戦略的衝動買い」とは?
そもそも「衝動買い」という行動に「戦略」があるとは思えないが、多くの場合、人は衝動買いの理由を後付けで探す必要性に迫られることも多い。
それは時に同居人に対する論理的な言い訳探しだったり、自分自身に対する説得工作であることもある。このコラムでは、筆者が思わず買ってしまったピンからキリまでの商品を読者の方々にご紹介し、読者の早まった行動を抑制したり、時には火に油を注ぐ結果になれば幸いである(連載目次はこちら)。
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