「参る」と「伺う」どちらを使う?
次のような状況の時、以下のどちらのメール文章が正しいでしょう?
登場人物
- あなた
- 取引先A社山田課長
- A社の顧客企業、B社田中課長
状況
- あなたは、A社山田課長からの依頼により、B社田中課長のところにいつ訪問できるかを山田課長宛にメールで連絡する必要がある。
- あなたは、田中課長と連絡を取り合い、訪問の日程は明日と決まった。
- あなたが山田課長にメールしたことを田中課長にも知ってもらうため、山田課長へのメールのCc:は、田中課長宛てとする。
さてあなたから山田課長へのメールの文面は、次のどちらが正しいでしょうか?
メール文章
- 明日、田中課長のところに伺います。
- 明日、田中課長のところに参ります。
いかがでしょうか? 正解は「1」です。
誰を立てるべき状況か
この時に考えるべきポイントは、2つ。
- この状況では誰を立てなければならないのか
- 「伺う」「参る」という言葉は、誰を立てる言葉なのか
まず「1. この状況では誰を立てなければならないのか」を考えてみましょう。
あなたにとって立てるべき人は、直接の取引先であるA社山田課長であることはもちろんですが、B社もA社の顧客企業なのですから、B社田中課長にも敬意を示す必要があります。まして田中課長にもCc:で送る文章なのですから、あなたは山田課長と田中課長の両方を立てる必要があるのです。
次に「2. 「伺う」「参る」という言葉は、誰を立てる言葉なのか」について考えてみます。
「伺う」「参る」は敬語の中でも同じ「謙譲語」ですが、実は用法が少し異なります。「伺う」は、相手を立てて述べる謙譲語であり、かつ第三者を立てる意味合いも含みます。
したがって、
○明日、田中課長のところに伺います。
という文章は、A社山田課長とB社田中課長の2人を立てている意味になるのです。
一方「参る」はどうでしょう?
実は「参る」には、「第三者」を立てる意味合いはなく、あくまでも相対している者に対してのみ、丁寧に述べる役割のみを持っているのです。その結果として相手に敬意を払う意味を含んだ言葉を「丁重語」といいます。
したがって、
明日、田中課長のところに参ります。
という文章は、A社山田課長に対しては、敬意を示しているものの、田中課長を立てている文章にはなっていないのです。
あなたの立場からは、両方に敬意を示す必要がありますので、「参ります」は不適切ということになります。
使い分けの明確な基準を理解する
より、単純な事例で比較してみましょう。田中課長を「弟」に置き換えてみるのです。
例えば、あなたとあなたの弟が共に教わった、大学時代の恩師宛にメールを出すといった状況において、
明日、弟のところに伺います。
──では、不適切だと感じるはずです。「伺う」を使ってしまうと恩師と同様に、弟も立ててしまうからです。
○明日、弟のところに参ります。
と「参る」を用いると、恩師には敬意を払いつつ、弟を立てることにはならないので、正しい用法といえます。
いかがでしょうか?
「伺う」と「参る」は、何となく感覚的に使い分けていらっしゃる方も多いように見受けられます。しっかりと選択の基準を理解して、どんな状況でも正しく使い分けたいものです。
【処方箋】
相対する人+第三者も立てたい時は「伺う」
相対する人物のみ立てたい時は「参る」。
~使い分けの明確な基準を正しく覚えよう!~
【筆者プロフィール】松原 和枝
(資)インスティル代表。中小企業診断士。日本女子大学文学部卒業。英国留学を経て三菱商事に勤務。食品本部に配属され主に食品流通業のマーケティング業務に携わる。コンサルティング会社を経て2000年インスティル設立。一貫してデータに基づくマーケティング・コンサルティング業務に携わる。
「ビジスパ」にてメルマガ「【週刊】メールコミュニケーションの処方箋」を執筆中。
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