社員ではなく“職人”を育てたいと思った
―― 堀川さんは、そもそもなぜアニメスタジオを作ろうと思ったのでしょうか。
堀川 アニメーションを作り続けたいからです。まっとうに作り続けるための理想の環境を作りたかった。それでまず制作工程の中でも、作画を担当するアニメーターを育てたいと思ったんです。歳をとっても、鉛筆一本で食べていけるような職人を育てたいなと。そんなふうに考えるようになったのは、僕が1990年からアニメーション業界に制作として携わってきて、大好きなアニメーションを制作し続けていくためには、強い現場を作らなければならないと思うようになったからです。そのためには、彼らアニメーターの育成が優先課題だと。
―― アニメーターを育てるのが一番大変だということですか。
堀川 僕はそう思っています。アニメーションの中核をなすセクションなのに、育成のための効率的なカリキュラムが業界にはありません。実践で学んでいくんですが、現在の作品傾向や環境は育成に適しているとは言えません。
アニメーターの報酬は、基本的に「出来高」なんですよ。どれだけ描いたからいくらもらう、という形なんですけど、やはりスピードと質を兼ね備えた量産には限界があります。その限界を感じたときには、“その後”戦う武器のことを考えていかなければならないんですね。日本の商業アニメーションで求められるデザインには流行があり、変化に対応するのは年齢をとると厳しくなってきます。それでも、長年つちかってきたスピードや高い技術があれば、それを有効に活かす道が残されていると思います。
© 花いろ旅館組合
―― 年齢を経るごとに、実力と経験によって差が出てくると。
堀川 そうですね。アニメーターには結局、どこか体力勝負のような、スポーツ選手みたいなところがあるんですね。20代で数をこなせるようにしておかないと、30代からは数は伸びないんですよ。よくピッチャーにたとえて話すんですけど、若いうちに基礎体力とスピードを伸ばしておいて、それからコントロールと配球術を身に付ける。30代から徐々に体力が付いてスピードが伸びていくなんてことはないと。
今うちにいるのは20代の子がほとんどなんですけど、彼らの基礎体力は、スピードが必要なテレビシリーズをがむしゃらにやることで鍛えられていると思います。ちゃんと数ができるようになれば、30歳を超えても、そこそこ技術があれば、どこへ行っても食べられるようにはなるんじゃないかとは思っていますね。若いころ身につけたスピードは最大の武器になるんです。
そのあとは、出来高以上の付加価値を持ってさらに収入を伸ばせるか、安定して長く食べていけるかということを示してほしいなと思っています。
―― そうした「職人」的なアニメーターを育てるために、会社を作られたわけですね。
堀川 いえ、アニメーターを育てたくて会社を作ったわけじゃありません。アニメーションを作りたくてアニメーターを育てているということです。そのために、アニメーターの育成を会社の優先課題としました。長く食べてくために、何でも描ける、速くたくさん描けるような実力をつけること。もうひとつは仕事に対するモチベーションを維持すること。特に、彼らに対してどうしたら「達成感」を与えられるのかなということはいつも考えています。
―― 達成感、ですか?
堀川 それが僕が会社を作った理由のひとつなんですけれども。90年代後半にアニメ作品がわっと増えたときに、どの現場でもアニメーターがまったく足りなくなってしまったんですよ。どのアニメーターも3~4作品を掛け持ちでやることになってしまって。その結果、一作品につき10カット、秒数にして40秒くらいしか担当できないとなると、「自分はこの作品を作ったんだ」という「達成感」は生まれにくいんです。特に新人では仕事量のコントロールもできないから、納期に追われるだけでいっぱいになっちゃう。
そういう作り方を続けていると、その作品のテーマとか作画の挑戦とじっくり取り組むような作り方が、残念ながらできないわけです。夢を持って入ってきたはずなのに、達成感が満たされる瞬間がないので気力まで消耗してしまうんでしょうね。
それなら会社で仕事量をコントロールして、複数の作品を掛け持ちをしないような体制にして、1話から最終話まで1本の作品に専念させようと。「自分はこの作品にどっぷり参加したんだ」と思えるようにね。同じ話数の中でも、できるだけカット数を多く持たせてあげて、40秒間ではなく、5分間くらい「このシーンは全部自分がやったんだ」と言えれば、自分の中に手応えも責任感も生まれるわけですよね。
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