「徳島」と聞いて何を思い浮かべるだろうか?
鳴門の渦潮、阿波踊り、お遍路さん、などいくつかのイメージがあるはずだ。
そんな中、いま盛り上がりを見せているのが「アニメの祭典」なのだ。
筆者もイベント司会を務めた、今回で7回目を迎えるアニメイベント「マチ★アソビ」について、その概要を紹介し、アニメビジネスに与えるインパクトについて考えてみたい。
のべ11万6000人の若者が徳島に
このマチ★アソビをプロデュースしているのは、「空の境界」「Fate Zero」などで知られるアニメ制作会社ユーフォーテーブル。徳島出身の近藤光社長が、2009年4月に徳島市内にスタジオを設立したことが、マチ★アソビの契機となった。
その特徴は、広くアニメ作品、業界関係者、クリエイター、ファンが集まり、約2週間にもわたって、街全体を使ったイベントが各所で繰り広げられること。海外の映画祭のように、街全体がアニメ色に染まる。
期間中、徳島空港はアニメバナーにジャックされ、レセプションやアニメアワードの授賞式には徳島県知事や中国からの来賓が参加するなど、回を重ねるにつれ、徳島市内周辺にとどまらず県を上げての国際的な取り組みにも育ちつつある。
空港から町へ移動すると、大げさな表現ではなく町全体がイベント会場となっている。徳島駅周辺の市街地、商店街から、市を象徴する眉山山頂、美馬市まで、その場所の特徴を活かしたイベントが盛りだくさん。
お目当てのイベントに参加するために、早朝からファンが行列を作り、1つのイベントが終了すると、大急ぎで次のイベントに向かう。市中にはコミックマーケットさながらの熱気と歓声が満ちることになる。
第7回を迎えた今回は、最終3日間だけで過去最多の4万3000人が参加。これで累計11万6000人がこのイベント目当てで徳島を訪れたことになる。これは、阿波踊りやお遍路とは別に、若者たちが新たにこの地にやってきたことを意味している。
コミケを彷彿とさせる手作り感と熱気
西日本でももちろんアニメに関する催しはこれまでも数多くあった。例えばアニメーション神戸賞は優秀作品、スタッフなどを選出する代表的なアニメアワードの1つで今年16周年を迎える。授賞式の会場から電車で40分ほどの西宮市は「涼宮ハルヒの憂鬱」の舞台でもある。いわゆる「聖地巡礼」として多くの人々が訪れたことを記憶している読者も多いだろう。
既存のイベントに対して、マチ★アソビは、特定の作品に限定されず、また、クリエイターやアーティストと、ファンが直接触れあう機会が設けられているのが大きな特徴だ。その熱気は作家と読者が交流するコミックマーケットのものに近いかもしれない。
コミックマーケットはボランティアによる優れた運営が際立っているが、アニメ制作という本業と並行して、イベントを運営をしているユーフォーテーブルのスタッフの労力は大変なものだというのは容易に想像がつく。
ユーフォーテーブルの近藤社長は、ノウハウを知りたいと各地から講演依頼が相次いでいることを明かしつつ、「なかなか枠組みだけを真似ようとしてもうまくいかないはず」と答える。現地に制作スタジオを置き、地元で雇用を生みながら、行政も巻き込んで地域と折衝を計る、という深い関わり合いがあって初めて可能になる取り組みという訳だ。
地元の商店とのタイアップで特徴的なのは、グルメハント(スタンプビンゴ)の実施だ。参加店で特定のメニューを注文するとポストカードが、またスタンプを集めるとプレゼントの応募券になる。現地の飲食店でも実際客足が伸びていると好感触を得ているようだった。
一方、飲食店以外は、活況を歓迎しつつもシナジーをどこで生むかまだ試行錯誤している段階のようだ。今後の拡がりに期待したい。
また、Fateシリーズに象徴されるように、いわゆる美少女ゲーム原作の作品も多く取り上げられていることも特徴だ。奇しくも都条例問題で分裂開催される関東のアニメイベントと異なり、ここでは美少女ゲーム原作の原画展なども開催されている。リスクも指摘される表現に対して向き合っているのも1つの特徴だと言えるだろう。
