前回は、日本動画協会のデータベースWG座長である増田弘道氏にお話を伺った。そしてアニメの海外展開の難しさについて、大きく2つの課題が提示された。
- 日本アニメの海外人気は高いが、海賊版を取り締まれずマネタイズできていない
- 海外のトレンドは、日本が得意とする2Dアニメから、フル3Dアニメに移りつつある
今回は、この海外展開の問題点をより深く考察するために、国内屈指のアニメビジネス情報サイト「アニメ!アニメ!」の数土直志(すどただし)代表にお話を伺う。
数土氏は証券会社勤務を経て独立、2004年にアニメ!アニメ!を立ち上げた。国内のみならず海外発のニュースもいち早く伝えることで知られている。
前回、増田弘道氏インタビューの時点で課題は山積していることが判明していた。その矢先の震災。アニメ、エンターテインメントビジネス、メディアへの影響も甚大だ。まずはその影響から始めざるを得ない。
震災とアニメーション
―― 4月に入り、子供向けアニメのDVDや再生機を被災地に送る活動などが始まっていますね。その一方で、紙やインクの不足でパッケージの生産がおぼつかず、発売が延期されるという状況も発生しています。
数土 「アニメなどのエンターテインメント産業は、衣食住に直接関わるものではありません。こういう状況になると、付加的な産業を担ってきた人たちの存在意義をもう一度考え直す必要に迫られてしまいます。
自分自身について言えば、エンターテインメントして生まれたものをさらに情報として伝える存在に過ぎません。
答えは探すしかないとしか言いようがありません。わたし自身、震災後Twitterで震災そのものについて触れることはできるだけ避けています。
Twitterで震災がイベント(催し事)のように扱われていることに違和感があり、淡々と自分ができることをやっていくしかないと考えていますね。
一方で淡々と普段の仕事をするだけでは直接被災者の方の助けにはならない。偽善的かもしれないけれど、『助けよう』とメッセージを発信することが大事なのかもしれない。まだわたし自身も割り切れない、迷っているところもあります」
―― とても陳腐な表現になってしまうのですが、アニメは夢や希望を与えることができるコンテンツが多いことに加え、アイデアと人手で生み出せる。そして海外へ輸出できることも改めて注目されてよいと感じています。
数土 「復興に際して、アニメに役割があるとすれば、海外に対するメッセージの発信でしょうね。海外メディアの震災報道は、あたかも『日本はもうダメだ』といったかなり酷い印象を与えるものもあります。
そんななか、これまでと同じようにアニメやマンガを送り出し続ければ、『いや日本は大丈夫だ』と思ってもらえる。仮に、震災がきっかけとなってアニメやマンガの作品数が減ってしまうと、逆のメッセージを発することになってしまう」
―― ブランド価値を守るというところにも通じるかもしれません。原発事故の映像が世界中に流れ、日本の安全ブランドは崩壊してしまった。せめて日本のポップカルチャーというブランドは変わらないと積極的に示せれば、かなり印象は違うはずです。
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