「基準となる量刑はどう決めている?」と興味の幅を広げた
―― 刑部をはじめたきっかけは「刑部をたちあげるまで」に詳しいですが、そもそも事件関連に興味を持ったのはいつ頃からですか?
笑月 中学2年の頃ですね。当時から本が好きで、森村誠一さんの長編推理小説「人間の証明」を読んで、実際の事件はどんなものなのか興味を持ったんです。その後、殺人者にインタビューして事件の実際を描いた佐木隆三さんの「殺人百科」に出会って、そこから事件関連の本にはまり込んでいきました。「殺人百科」は思想の偏りがない本だったので、普通に「犯罪者はひどい」と思いながら、どんな人がどんな理由で犯罪を犯したのかという単純な興味本位で読みましたね。
―― 「殺人百科」のなかに、主犯は懲役刑になってサブ的な共犯者が死刑となったという「指定105号事件」※のエピソードがあって、そこで死刑制度に注目するようになったと書かれていましたね。
笑月 あれは衝撃でしたね。従犯と思われる者が、主犯扱いになって死刑になったわけですから。それから死刑囚関連の書籍をたくさん読むようになったんですよ。……そういう本には死刑廃止団体系の資料が入っているものも多くて、私自身もだんだん加害者寄りの心情に偏っていきました。それから、人生経験が多少は増えたこともあり、被告人を見守る立場と責める立場の両方の資料をたくさん目にするようになって、中道に戻っていったのかなと思います。「犯罪者がかわいそう」とかではなく、冤罪で死刑を執行してしまう制度の穴を問題視するというという観点に移行していきました。
※ 警察庁広域重要指定事件105号 : 1965年暮れの1ヵ月間に、古谷惣吉が各地で8人を殺害した事件。古谷はこの事件以前、1951年に共犯の少年とともに強盗殺人事件を起こしており、まもなく逮捕された少年は極刑に処された。古谷は少年の死刑執行後に逮捕され、懲役10年。後に強盗殺人の主犯は自分で、少年は見ていただけだったと語り、冤罪によって死刑執行がなされたことを示唆した
―― 刑部を立ち上げた頃には、そういうスタンスが固まっていましたね。現在の死刑制度についての考えを教えてください。
笑月 「これは死刑で仕方ないだろ」と思う事件にもたくさん触れましたが、やっぱり人間がやることに100%はないじゃないですか。もしかしたら冤罪かもしれない人を死刑にしてしまったら、取り返しがつかない。だから完璧じゃない社会の中で別の方法を見つけたほうがいいのでは、というのが私の考えです。
ただ、何が何でも廃止というわけではなくて、あくまで世論に沿ってということですね。皆が死刑の実態を知った上で存続を選ぶのであれば、仕方ないことだと思います。だからサイトを通して、世間に対して「死刑を廃止しよう!」ではなく、「死刑について考えよう!」と呼びかけている意識がありますね。
―― なるほど。最初の興味本位から、事件、制度、社会と視野を広げられたわけですね。その過程の中でも、個別案件に興味を持つ段階から制度を考える段階になるのが一番難しい気がします。笑月さんはどんなふうにシフトしていったんですか?
笑月 うーん、事件関連に興味を持つとき、「死刑になった犯罪を追っていこう」みたいに、量刑は重要な目安になりますよね。では、基準となる量刑はどうやって決めているのかと考えるようになったんです。それで調べていくと、放火で9人死なせても死刑にならない例がある一方、2人殺して死刑になった例もある。単純に「何人殺したから死刑」というわけではなく、過去の判例を参考に決めているところがあると気づいたんですね。それで、判例やそれを下した裁判、もととなる刑法や刑訴法を知りたいと思うようになったんです。
そこから刑部を公開することになって、いい加減なことは書けないと思い、もうちょっとしっかり勉強しようというふうになりました。ただ、今でも興味本位なところはありますよ。
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