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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第96回

「会社の宣伝になってない」と言われたら、「その通り」

NTT研究者が“錯覚”サイトにかける純粋な感情

2011年06月22日 12時00分更新

文● 古田雄介(@yskfuruta

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会社から要望はなく、本業の合間に更新

―― まずはサイトを始めたきっかけを教えてください。

柏野 私たちの本業は人間の視覚や聴覚のメカニズムを解明する研究で、その中で錯覚というのは非常に“使える”道具なんですよ。なので、仕事で頻繁に錯覚を扱っていて、すごく面白いものだと知っているわけです。だったら内輪にとどめず、世の中に広く知ってもらおうと考えたのがそもそもの発端ですね。そうして、当時同じ部署にいた内藤誠一郎さん(現・東海大学教授)と一緒に計画を練るようになり、1999年にWebサイトとCD-ROMを作ったんです。CD-ROMはクイズやゲームも盛り込んだ作りになっていて、うちの研究所が企画・監修、制作・販売は日経映像さんという体制でした。

NTTコミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員 人間情報研究部長 兼 感覚情動研究グループリーダの柏野牧夫氏。東京工業大学大学院総合理工学研究科 連携教授も務めている


―― 最初から会社のコンテンツという位置づけだったんですね。CD-ROMやサイトを作る際、会社から何か指示や要望はありましたか?

柏野 何もなかったですね。何かを宣伝しろみたいなものも、「やるからにはこうしろ」みたいな指針も。ただ、一応会社としては、自分たちが何をやっているのか世間に知ってもらうひとつの機会と捉えていたと思います。われわれの研究はその世界で業績を上げても、一般的にはなかなか広まらないんですよね。NTTが電電公社だった頃はそれで良しとする風潮が強かったんですけど、2000年前後の頃には「広報的なことも大切だ」みたいな空気が感じられるようになっていまして。


―― お二人の思い描くとおりに作ったわけですね。初代サイトもじっくり1年かけて。

柏野 いえ、実際の準備期間は3ヵ月くらいでしたね。どんな錯覚をどんな体裁で紹介するという大枠を内藤さんと私で考えて、デザイン会社の人にサイトで使う絵柄を見栄えよくしてもらったり、サイト全体を仕上げてもらったりしました。それでも、自分の研究分野のものは自分で解説文やサンプルを用意していったので、本業の合間に作るのが大変だった気がします。あまりに昔のことで覚えていませんが(笑)。


―― 開設後は基本の体裁を変えずにゆるやかに更新していたと思いますが、10年後の2009年に大幅なリニューアルをされましたね。

柏野 コンテンツが時代にそぐわなくなっていたのが大きいです。初代はマウスではなくキーボード操作で動かす作例が多々ありましたし、画質や音質も一般的なコンテンツと比べてあまりに低くなってましたから。そう思いながらも本業優先で後回しにし続けて10年経ってしまったので、本腰を入れてイチから作り直そうと考えたんですよ。会社から尻を叩かれたわけではないんですが、やっぱり、通信事業をやっているNTTの研究者なのに、こんな前時代なサイトを公開し続けるのはマズいだろうと。それでも、私の担当の錯聴の一部は間に合わず、2010年にもう一度リニューアルして、現在の形が完成しました。

現在のサイトにも初代メンバーのコンテンツは残っている。画像は、内藤氏が発見した「重力レンズ錯視」。小さな4つの点を結ぶと平行四辺形となるが、大きな点の配置によって歪んでみえる

(次ページに続く)

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