面白いものを面白く紹介する
そのクオリティに妥協はできない
―― 目的について掘り下げさせてください。サイト更新の意欲を支えているのは、研究者として活動を知ってもらう意識と会社の広報的な意識など、どのあたりにあるんですか?
柏野 どっちもないんじゃないですかね。うーん、もっとこう純粋に「こういうものがありますよ」というところ。森羅万象不思議なこととか、世の中にはあるわけで、それに興味を持ってもらえればよくて、あんまり何かを売り込もうというのはなないんです。
結局、われわれは基礎研究者なので、良くも悪くもそろばん勘定が下手。そういうふうに頭ができていないんです。だから、会社から「これ宣伝になっていないじゃないか」と言われたら、「その通りです」と言わざるを得ません(笑)。純粋にこれは面白いとか、面白くないとか、そのへんのクオリティに妥協できないというだけなんですよね。
―― 面白いと思えるものを紹介する以上、手を抜かずに最大限努力したいという感じですか。
柏野 そう、そうなんです! 現象として、錯覚という現象の面白さがこれだけあるのに、自分たちのプレゼンテーションが悪いがために伝わらないとすれば、それは非常にゆゆしき問題と思うんですよ。インターフェースやコンテンツ自体が時代にそぐわなくて敬遠されるのは駄目ですし、面白い現象なのに自分が面倒だから載せないというのも我慢できないんです。それで現象を紹介するにしても、見てくれた人にちゃんと原理が伝わるように、説明文をなるべく易しく……かつ、専門家が読んでもおかしくないように書いて、出典もしっかり入れたい。そのへんの妥協ができないんですよ。
―― 確かにイリュージョンフォーラムの解説文は、科学館に貼ってある解説パネルみたいな印象を受けます。ちゃんとルビも振ってあって、小学生でも分かるような。ターゲットは、やはり小学生から?
柏野 そうですねー……小学生にも伝わるという意識で書いていますね。ただ、説明文に関して言えば、実際は漢字が多くて、まだ分からない部分もあるだろうなとは思います。だから、正確には小学生が背を伸ばさないと届かないくらいですかね。それくらいじゃないと、歯ごたえがなくて、逆に歓迎されない気がしますし。まあ、説明の部分は読んでもらわなくてもデモで現象だけ理解してもらうこともできますから、ある程度難しそうな言葉を使ってもいいかなと考えています。
―― そういう意識で表現するのは大変じゃなかったですか? 研究者や学者の方のサイトを見ると、論文の延長線の体裁で書いている人も少なくないですし。
柏野 そこは割と慣れているんですよ。普段の仕事でも、ビジネス関係の方や学生など、研究者以外の人に説明する機会が多くて。そういう人たちに状況に応じた説明をずっとやってきたので、不正確にならない範囲でかみ砕いて伝えるのは、それほど苦じゃないです。まあ、象牙の塔にこもって研究者しか相手にしない生活をしていたら厳しかったでしょうけど(笑)。
(次ページに続く)
この連載の記事
-
最終回
トピックス
アンサイクロペディア“中の人”が語る、ユーモアの難しさ -
第99回
トピックス
マスコミが報じない“カルト”を記事に 「やや日刊カルト新聞」 -
第98回
トピックス
「もし森ガールが森へ入ったら」アサイさんの超地道な努力 -
第97回
トピックス
死刑は必要? 冷静に考えるためのWeb資料室「刑部」 -
第95回
トピックス
ネットの「熱さ」、現代アートに――藤城嘘とカオス*ラウンジ -
第94回
トピックス
諸君!革命的美人ブロガー安全ちゃんに刮目せよ! -
第93回
トピックス
探検コムの「広く浅く」が深すぎる! -
第92回
トピックス
金髪ギャル語でニュートリノ、Shoさまが熱い! -
第91回
トピックス
「計画断水」知ってる? ネットで日本の昭和を振り返る -
第90回
トピックス
電子書籍を紙で売る! 「コトリコ」挑戦への道 - この連載の一覧へ