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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第96回

「会社の宣伝になってない」と言われたら、「その通り」

NTT研究者が“錯覚”サイトにかける純粋な感情

2011年06月22日 12時00分更新

文● 古田雄介(@yskfuruta

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面白いものを面白く紹介する
そのクオリティに妥協はできない

―― 目的について掘り下げさせてください。サイト更新の意欲を支えているのは、研究者として活動を知ってもらう意識と会社の広報的な意識など、どのあたりにあるんですか?

柏野 どっちもないんじゃないですかね。うーん、もっとこう純粋に「こういうものがありますよ」というところ。森羅万象不思議なこととか、世の中にはあるわけで、それに興味を持ってもらえればよくて、あんまり何かを売り込もうというのはなないんです。

 結局、われわれは基礎研究者なので、良くも悪くもそろばん勘定が下手。そういうふうに頭ができていないんです。だから、会社から「これ宣伝になっていないじゃないか」と言われたら、「その通りです」と言わざるを得ません(笑)。純粋にこれは面白いとか、面白くないとか、そのへんのクオリティに妥協できないというだけなんですよね。


―― 面白いと思えるものを紹介する以上、手を抜かずに最大限努力したいという感じですか。

柏野 そう、そうなんです! 現象として、錯覚という現象の面白さがこれだけあるのに、自分たちのプレゼンテーションが悪いがために伝わらないとすれば、それは非常にゆゆしき問題と思うんですよ。インターフェースやコンテンツ自体が時代にそぐわなくて敬遠されるのは駄目ですし、面白い現象なのに自分が面倒だから載せないというのも我慢できないんです。それで現象を紹介するにしても、見てくれた人にちゃんと原理が伝わるように、説明文をなるべく易しく……かつ、専門家が読んでもおかしくないように書いて、出典もしっかり入れたい。そのへんの妥協ができないんですよ。


―― 確かにイリュージョンフォーラムの解説文は、科学館に貼ってある解説パネルみたいな印象を受けます。ちゃんとルビも振ってあって、小学生でも分かるような。ターゲットは、やはり小学生から?

柏野 そうですねー……小学生にも伝わるという意識で書いていますね。ただ、説明文に関して言えば、実際は漢字が多くて、まだ分からない部分もあるだろうなとは思います。だから、正確には小学生が背を伸ばさないと届かないくらいですかね。それくらいじゃないと、歯ごたえがなくて、逆に歓迎されない気がしますし。まあ、説明の部分は読んでもらわなくてもデモで現象だけ理解してもらうこともできますから、ある程度難しそうな言葉を使ってもいいかなと考えています。


―― そういう意識で表現するのは大変じゃなかったですか? 研究者や学者の方のサイトを見ると、論文の延長線の体裁で書いている人も少なくないですし。

柏野 そこは割と慣れているんですよ。普段の仕事でも、ビジネス関係の方や学生など、研究者以外の人に説明する機会が多くて。そういう人たちに状況に応じた説明をずっとやってきたので、不正確にならない範囲でかみ砕いて伝えるのは、それほど苦じゃないです。まあ、象牙の塔にこもって研究者しか相手にしない生活をしていたら厳しかったでしょうけど(笑)。

それぞれのデモの下には、現象をかみ砕いて解説する説明文が必ず載せられている。参考文献や出典を明記しているところにも、研究者としてのこだわりを感じる

(次ページに続く)

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