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データベースベンダー5社とアライアンスを発足

HP、ロックリリース戦略でユーザーをオラクルから解放

2011年04月27日 10時00分更新

文● 渡邉利和

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ユーザー企業が支払うライセンスコストが2倍に

 詳細を説明した同社のエンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 サーバーマーケティング統括本部 製品戦略室 室長の山中 伸吾氏が、今回の発表に至った直接的な理由として挙げたのは、オラクルによる「ライセンス係数の引き上げ」と「Itanium向けソフトウェアの開発中止」の2点だ。同氏によれば、オラクルは2010年12月1日に、「事前の充分な予告もなく、インテルItaniumプロセッサー9300番台搭載サーバー上で稼働するOracle Database Enterprise Editionのプロセッサーライセンス係数を2倍に変更」したという。

エンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 サーバーマーケティング統括本部 製品戦略室 室長の山中 伸吾氏

 これにより、ユーザー企業が支払うライセンスコストは単純に2倍に跳ね上がることになる。なお、プロセッサーライセンス係数とは、マルチコアプロセッサーの普及に伴う措置として導入されたものだ。Oracle DBのライセンス体系は、大きく「プロセッサーライセンス」と「ネームドユーザーライセンス」の2種類があり、プロセッサーライセンスでは稼働するサーバーのプロセッサー数でライセンス価格が決まる。このとき、マルチコアプロセッサーのコア数をそのままプロセッサー数とするのではなく、一定の係数を掛けてライセンスの単位となるプロセッサー数を決定するようにした。基本的には、ライセンス料は“ソケット数以上、コア数以下”の価格に落ち着くので、マルチコアプロセッサーを利用するといきなりライセンス料が数倍に跳ね上がる、という状況にならないように配慮されている。しかし、この係数はオラクルがプロセッサーごとに独自に決定しているため、プロセッサーの種類によって有利不利が出る。Itaniumの場合、2010年11月30日までに従量したシステムでは係数0.5だったが、2010年12月1日以降は1.0になった。これで、Itaniumの場合はコア数=ライセンス数となり、ユーザーにとっては「ライセンス料が突然2倍に」ということになるわけだ。

オラクルによる突然のライセンス変更

 また、Itanium対応ソフトウェアの開発中止に対しては、即日インテル/HP両社が共同リリースを発表し、「インテルがItanium中止を示唆した、オラクルが発表しているのは事実に反する」と抗議している。

 過去HPはパートナーがサーバービジネスに参入するのを歓迎することはなく、シスコが独自仕様のUnified Computing System(UCS)を発表した後は自社のデータセンターを“Cisco-free Data Center”としてシスコ製品を排除したことを公表するなど、激烈な反応を見せてきた。オラクルがサンの買収によってサーバー市場に参入したことも、もちろんHPとしては歓迎できる話ではなかったはずだが、一方で「HPサーバーとOracle DBの組み合わせ」が大きなビジネスになっていたこともあって、これまでは表面上目立った動きはなかった。しかし、Itaniumに関するオラクルの一連の動きは、さすがにHPにとっても見過ごすわけにはいかなかったのだろう。

Itaniumチップ対応のソフトウェア開発を中止

 Itaniumは、元々HPの自社プロセッサであったPA-RISCの後継とすることを前提に、HPがインストラクションセットを開発したといわれるプロセッサーであり、HPとしても簡単に手を引けるものではない。市場ではx86系のXeonやAMDが優勢であり、Itaniumは開発の遅れも深刻になっているという事情はあるが、それでもハイエンドのミッションクリティカルシステムでの採用が主であることから、ビジネスとしてはそれなりに利益が見込める製品なのかもしれない。リリースという形で抗議の意志は表明したものの、単に言葉だけでは市場の懸念は払拭できない恐れがあるし、「Oracle DBが使えないハイエンドサーバー」という烙印を押されてしまえばItanium事業の息の根が止まりかねないわけだ。こうなれば、HPとしてはオラクルと直接的に対立する形になったとしてもItanium搭載サーバーはこれまで同様ミッションクリティカルシステムで利用可能なプラットフォームだということをアピールせざるを得なくなる。こうした経緯を振り返ってみると、今回の発表に関してはオラクルがHPを追い込んだ結果だということになりそうだ。

 オラクルにとっては、Itaniumに関する開発負担が無視できなかったのかもしれない。撤退を先延ばしにしても傷が拡がるだけという判断かもしれないが、一方でItaniumサーバーのユーザーはハイエンドのミッションクリティカルシステムとして利用する例が多く、そうしたユーザーの多くはデータベースとしてOracle DBを選ぶ、という発言もあり、オラクルとしても急いで撤退しなくてはいけない状況だったようにも思えない面もある。なぜオラクルがHPのハードウェアビジネスに対する「ネガティブキャンペーン」(とHPは受け取ったと思える)のような発表を行なったのかがよく分からない。

ユーザーはなぜOracle DBを選択するのか?

 ITの世界では、比較的寡占状態が起こりやすいように思える。古くは“Big Blue”“帝国”とまで言われたIBMや、PC全盛期のマイクロソフトなど、1社があまりに大きなシェアを持ってしまったがためにユーザーが不利益を被る、という状況は何度か起きている。現在、エンタープライズソフトウェア/データベースの分野では、オラクルが危険視されるほどの存在感を持つまでに成長しているのは間違いないところだ。そのオラクルも、Microsoft SQL Serverと直接競合する小規模なx86系サーバー向けのライセンス価格は低く抑えているという話もあり、適切な競争が存在することが市場の健全性を保つためには重要なことだという点はおおむね間違いないところだろう。

登壇したデータベース改革推進アライアンスのメンバー企業の代表者。左から、エンタープライズDB 日本/韓国/中国 総代表 General Manager 藤田 祐治氏 日立製作所 情報・通信システム社 ソフトウェア事業部 IT基盤ソフトウェア本部 DB設計部 部長 大田原 実氏 日本マイクロソフト 業務執行役員 サーバープラットフォームビジネス本部 本部長 梅田 成二氏 SAPジャパン バイスプレジデント チャネル営業統括本部長 小関 高行氏 サイベース 代表取締役社長 早川 典之氏

 とはいえ、Oracle DBがそれだけの大きな存在感を持つに至ったのは、やはりユーザーがOracle DBを選んだからだ、という側面もある。Oracle DBのライセンス料やサポート費が高額だという批判は今に始まったものではないが、それでもOracle DBを選ぶユーザーが多く存在するのが実情であり、その理由は信頼性、安定性や、機能、パフォーマンスなど、製品そのものの品質による部分も大きいだろう。アプリケーション側で使用するSQL文を精査することでデータベースに対する可搬性を確保するというのは、流れとしては正しい方向だと思えるし、今後のクラウド化などの大きなトレンドに対応する上でも必要なことだと思える。しかし、そのために信頼性やパフォーマンスを劣化させてもよいと考えるユーザーは多くはないはずなので、最終的にはオラクルと正面から肩を並べられるような優れたデータベース製品が市場の認知を獲得しない限り、オラクルによるロックインの解消は難しいとも思える。

 とはいえ、現在Oracle DBを選択して利用しているユーザー企業にとっても、ライセンスコストやサポートコストが値下がりするなら大歓迎、というところだろうから、心情的にはHPやデータベース改革推進アライアンスの取り組みは好感をもって受け入れられそうだ。オラクルがその存在を意識せざるを得ないような強力なライバルが地位を確立し、両社の競争によって高機能化/低価格化の好循環が回り始める、という状況こそが多くのユーザー企業の希望であろうことは間違いない。

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