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データベース改革推進アライアンスに動きあり

HP主導のデータベースの「ロックリリース」にSIも協力

2011年10月05日 09時00分更新

文● 渡邊利和

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10月4日、日本ヒューレット・パッカード(HP)は「データベース改革推進アライアンス」のアライアンスパートナーを拡大。新たに国内のSI事業者が参画したことを発表した。新たに参加したのは、日立ソリューションズ、伊藤忠テクノソリューションズ、日本ユニシス、NTTデータ、TIS、東芝ソリューションの6社だ。

クラウドに備えた移行容易性の確保

 データベース改革推進アライアンスは、今年4月26日に、日本HPとデータベースベンダー5社(エンタープライズDB、日立製作所、日本マイクロソフト、SAPジャパン、サイベース)のアライアンスとして発足が発表されたものだ。ユーザーの業務アプリケーションが特定のデータベースと密接に結合してしまい、データベースを乗り換えることが困難になってしまっている現状を改善し、データベースにロックインされている状態からユーザーを解放する、というのがその趣旨だった。

アライアンスの概論

 一方で日本HPはこのアライアンスの発足のきっかけとしてオラクルの「Itanium向けライセンス係数の引き上げ」「Itanium向けソフトウェアの開発中止」を挙げるなど、オラクル対抗の色彩を強く打ち出していた。いわば、“データベース分野におけるアンチオラクル連合”といった姿勢を取っていた。

 しかし、それから約半年が経過し、日本HPの少々感情的にも見えた姿勢も冷静さを取り戻しつつあるように見えた。今回新たにアライアンスのメンバーとして加わったSI事業者は、データベースソフトウェアベンダーとユーザー企業の間をつなぐ要の存在であり、実際にデータベース移行プロジェクトを推進する際には不可欠の存在だ。

データベース改革推進アライアンスのメンバー構成

 一方でオラクル関連のビジネスも、濃淡の差はあれどそれなりに手がけているはずで、正面からオラクルと敵対したいと望んでいるとは思えないため、オラクルとの対決姿勢ばかりが強調される状況では参加は難しかっただろう。その意味でも、主たるメッセージがユーザーメリットそのものに向けられるようになったことで、このアライアンスの今後の活動にも好影響があるものと期待できる。

「データベースの移行は無理」という神話

 まず概要説明を行なった日本HPの常務執行役員 エンタープライズアライアンス営業統括本部長の吉谷 清氏は、「企業にとって自社のアイデンティティを保ちながら低コストなシステムに移行する必要があり、それにはクラウド化が必須となるが、データベースのベンダーロックインがクラウド化の障害になる」と語った。

日本ヒューレット・パッカード 常務執行役員 エンタープライズアライアンス営業統括本部長 吉谷 清氏

クラウド時代にはロックリリースが必須

 4月下旬のアライアンスの発足発表以降、このテーマでのセミナーを3回開催したそうだが、いずれも満員で、ユーザー企業の関心は高いとも明かしたが、一方でアプリケーションの移行には課題も多いのは事実で、そのためにもSIパートナーの参画が重要になるとした。

 続いて、同社のエンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 サーバーマーケティング統括本部 製品戦略室 室長の山中 伸吾氏が登壇し、詳細説明を行なった。

日本ヒューレット・パッカード エンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 サーバーマーケティング統括本部 製品戦略室 室長 山中 伸吾氏

 同氏は、4月にHPが提供する4つの新サービスを発表したうち、特にユーザー企業からの関心が高かったのは「HP SQL標準化アセスメントサービス」だったことを明かした。その上で、実際の移行プロジェクトに着手した例こそまだないものの、アセスメントサービスはすでに国内で20社以上のユーザー企業がサービスを利用したという。

4月発表のHPの新サービスの提供実績

アライアンス発足から現在までに得られたユーザー企業のフィードバック

 このことに関して同氏は、「データベースの移行は現実問題として不可能だとユーザー企業に言われることもあるが、『なぜ不可能だと思われるのか』を聞いても明確な答えが返ってくることはなかった」と語り、データベースの移行は無理、という考えがいわば神話化してしまっている現状を指摘した。その上で、「データベースの標準化作業にどの程度のコストが掛かるのか、その『定量的評価』すら行なわれていない状況ではできるのかできないのかの判断すら不可能だ」と続けた。

 HP SQL標準化アセスメントサービスによって、データベースを変更した場合にアプリケーションに対してどの程度の改修が必要になるのかが明確化されれば、「その程度ならできそうだ」とか「そこまで負担が大きいのではとても無理」といった判断が合理的な根拠に基づいて下せるというわけだ。

同床異夢か? クラウド時代の共通課題か?

 つづいて、アライアンスに新たに参画することになったSI事業者各社がそれぞれの立場を表明する機会も設けられた。なかでも印象的だったのは伊藤忠テクノソリューションズの話で、同社が仮想化技術等を活用してITインフラの統合に取り組んだ経験を踏まえ、「ハードウェアとOSの柔軟性は確保でき、インフラの統合ができるようになったものの、アプリケーションはデータベースに密接に依存しており、結果として統合されたインフラの上に“アプリケーションのサイロ”がそのまま残っている」という現状を指摘した。

 その他、各社それぞれの立場が表明されたが、推進したいデータベースに関しても、日立ソリューションズは当然ながら日立のRDBMSであるHiRDBに関する技術や経験の豊富さをアピールし、日本ユニシスやNTTデータはオープンソースソフトウェアへの取り組みを強く打ち出し、さらに東芝ソリューションは「マルチベンダー/マルチプラットフォームという従来からの姿勢は不変」と強調することで暗にオラクルに対する配慮を感じさせるなど、一見すると同床異夢といった印象を持ってしまいそうになる。しかし、実のところ各社に共通していたのは「ユーザー企業のクラウド対応への意欲にどう応えていくか」という問題意識だと感じられた。

 冒頭で日本HPの吉谷氏が指摘したとおり、ユーザー企業はまず自社内のITシステムをプライベートクラウド化し、さらに外部のパブリッククラウドと連携を図るハイブリッドクラウドへと進んでいくことになるのはまず確実だ。こうしたプラットフォームの変化をSI事業者が支援していくためには、「特定のデータベースでないとダメ」という状況は足かせになりかねない。状況に応じて適材適所でデータベースを選択できる“移行容易性”は、ユーザー企業のみならず、システム構築を実際に手がけるSI事業者にとっても確保しておきたい要素であることは間違いないだろう。

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