「若者の車離れ」、魔女っ子たちが食い止める?
車のCMではなく、本気のアニメを――スバルの挑戦【前編】
2011年05月21日 12時00分更新
作品の中で「宝探し」
鈴木 たとえば、主人公のすばるが持っている展望室の鍵がスバル車のものだったり、すばるたちが杖で空を飛ぶときの音がエンジン音だったり、バス停名が工場の名前になっていたり、車もたぶん1台だけ走っていたんですが、あれも実はスバル製だったり。随所に小技が効いていて、ちょっとクスッとなる部分があって、僕も含めて車好きとかスバルファンはそういうところが大好きなんだろうなと。そういうところは、なるほどと思いながら見ていました。


(C)FUJI HEAVY INDUSTRIES / GAINAX / S×G アニメプロジェクト実行委員会
―― スバルのイメージを細かく入れていくことで、お客さんに印象付けたということですか。
鈴木 というより、「何かを探してもらう楽しさ」みたいなものかなと思いました。「プレアデス」の公式サイトもTwitterと連動しているんですけど、皆さんで探して「このシーンはスバルのあの部分じゃない?」みたいに盛り上がってくださったみたいで。ずっと作品に関わっていた僕でも気付かない部分がいくつもあったりして、ああ、すごいな、という。
驚いたんですが、Wikipediaにもページを作ってくださったんですね。お客さんが、わざわざ企業の情報を探してくれるということってなかなかないですよ。自ら情報を探して集積していく……アニメが好きな方とネットユーザーというのは、やっぱり気質的に似ているのかなと思います。「宝探し」みたいに探してくださるのを見て、やっぱり明示しないで暗示したのは正解だったのかなと。
キーワードは「SNSを作る」こと
―― ネットは前のめりのメディアである、ということを生かしているわけですね。ウェブサイトを見て興味深かったのが、SNS的な作りでした。Twitterのタイムラインが流れたり、非常に「視聴者に近い」サイトだと感じたんですね。
鈴木 そうですね、それは意識しました。SNSは一緒に盛り上がったり、みんなで情報を「共有」できるというところが特徴だと思います。お客さんのコメントが瞬時に上がってくるようにしたい、ニコニコ動画みたいにみんなで盛り上がっている感じが出るといいなと。
ネガティブな意見も上がってくるかもしれないとうのが少し不安だったのですが、そういったことも起きなかったです。最近になってTwitterやFacebookなど、個人の名前をある程度出していくものが増えましたし、「いいね」ボタンなども象徴的ですが、前向きなマインドになってきたなと思います。
―― この広告によって、お客さんの層が広がったという実感はありましたか。
鈴木 はい。ウェブは数値が出ますので。再生回数、ツイート数、そういったもののトータルでの部分を見ると一定の成果は出ていることなんだろうなと。「プレアデス」の再生回数も、初速が予想以上に高かったです。僕もプライベートで動画を撮ってYouTubeなどにいろいろ上げているんですけど、僕の上げた動画の3年間分の再生回数が、「プレアデス」には1週間で抜かれてしまいました(笑)。
話題になってくれているというのは肌感覚でも感じましたね。ネットの盛り上がりというのは、どこか数値化できない空気感みたいなものがあると思うんですが、コメントの中にアニメだけでなくスバルの話題が多かったことも予想外でした。「うちはずっとスバル車で」みたいなコメントもあったりして。
先日も、ちょっと感慨にふけることがありまして。コメントに「スバルの車を買いました」と。「プレアデス」を観て、本当に車を買っていただいた方がついに現われた。このアニメで車を売ることは考えていなかったとはお話ししましたが、直接の購入に繋がったことは非常にうれしかったですね。それだけ広告コンテンツを楽しんでいただいているのはすごく感慨深いです。
「広告=良くないもの」みたいに思われることもあるんですけど、今回の「プレアデス」が、広告自体を楽しめるような、お客さんみんなが幸せを感じられるようなひとつの形になれていればうれしいですね。

(C)FUJI HEAVY INDUSTRIES / GAINAX / S×G アニメプロジェクト実行委員会
(次回はスバルへのインタビュー後編を挟み、制作側のガイナックスにも話を聞く。お楽しみに!)
■著者経歴――渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)
1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。日経ビジネスオンラインにて「アニメから見る時代の欲望」連載。著書に「ワタシの夫は理系クン」(NTT出版)ほか。
「放課後のプレアデス」公開記念キャンペーン
シネマコンプレックス、ユナイテッド・シネマでは、「放課後のプレアデス」公開を記念したキャンペーンを実施。6月4日から7月1日までプレアデスのマナームービーを上映するほか、オリジナルグッズも販売する。豊洲劇場ではアニメをイメージしたカフェスペースも6月4日から19日までの期間限定でオープン。詳しくは公式サイトで。

この連載の記事
-
第58回
アニメ
辞職覚悟の挑戦だった『ガールズバンドクライ』 ヒットへの道筋を平山Pに聞いた -
第57回
アニメ
なぜ『ガールズバンドクライ』は貧乏になった日本で怒り続ける女の子が主人公なのか?――平山理志Pに聞く -
第56回
アニメ
マンガ・アニメ業界のプロがガチトークするIMART2023の見どころ教えます -
第55回
アニメ
日本アニメだけで有料会員数1200万人突破した「クランチロール」が作る未来 -
第54回
アニメ
世界のアニメファンに配信とサービスを届けたい、クランチロールの戦略 -
第53回
アニメ
『水星の魔女』を世に送り出すうえで考えたこととは?――岡本拓也P -
第52回
アニメ
今描くべきガンダムとして「呪い」をテーマに据えた理由――『水星の魔女』岡本拓也P -
第51回
アニメ
NFTはマンガファンの「推し度」や「圧」を数値化する試みである!? -
第50回
アニメ
NFTで日本の漫画を売る理由は「マンガファンとデジタル好きは重なっているから」 -
第49回
アニメ
緒方恵美さんの覚悟「完売しても200万赤字。でも続けなきゃ滅ぶ」 -
第48回
アニメ
緒方恵美さん「逃げちゃダメだ」――コロナ禍によるライブエンタメ業界の危機を語る - この連載の一覧へ