YouTubeで公開中の「放課後のプレアデス」は、自動車メーカーのスバルが、「天元突破グレンラガン」のガイナックスに制作依頼をして作られた、異色のアニメだ。仕掛け役は富士重工のマーケティング担当者、鈴木 曜氏。「なぜスバルがアニメを?」という疑問には、前回までにたっぷりと答えを聞いた(前編、後編)。
では、制作側のガイナックスはどうだろう。大成功したエヴァを始め、つねに挑戦的なアニメを作りつづけてきた彼ら。業界のトップランナーとしてひた走りながらも、作品ごとに“ガイナックスらしさ”のような分かりやすい統一性はなく、そのぶん、つねに何かが新しい。逆に言えば、その新しいことだけが共通している。
そこに来て「プレアデス」だ。舞台はテレビでもビデオでも映画でもなく、YouTubeの短編アニメ。この勝負の裏側には、どんな意志が込められているのだろう? プロデューサーの高橋祐一氏に話を聞くと、そこにはガイナックスの“ものづくり”にかけるひとつの意志が浮かびあがってきた。
「放課後のプレアデス」

空を見上げた。あの星を見つけた――。放課後の学校。星が好きな少女、すばるは校内にある展望室のドアを開くが、そこは見たこともない温室につながっていた。すばるはそこで不思議な少年、みなとと知り合う。その後、魔女の格好をした4人の少女たちとも出会い、すばるは徐々に魔法の物語に巻き込まれていく。
(C)FUJI HEAVY INDUSTRIES / GAINAX / S×G アニメプロジェクト実行委員会
―― スバルの鈴木 曜さんからお話をおうかがいしたのですが、スバル自動車の広告アニメーションの制作をガイナックスさんに依頼した際、最初は断られたということでしたね。
高橋 そうですね。ガイナックスではオリジナル作品を制作すると、年単位で時間がかかるものなんですが、いただいた期間が数ヵ月と短かったので、制作期間の点で難しいと思ったんです。あとは、ガイナックスという会社の特性と「広告アニメーション」は合わないのではないか、という懸念がありました。


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―― ガイナックスと「広告アニメーション」は、どんな点が合わないと思いましたか?
高橋 ガイナックスでは、まず「自分たちが満足できるものを作る」。ファンの方やクライアントさんに合わせることも大事だけれども、うちでは、まず作り手がやりたいことを実現できるかどうかのほうが大事なんです。
それに対して、広告というのは、作品性よりもまず商品ですよね。広告映像だと、お客さまに一目で「これは○○という商品だ」と認識してもらうために、ダイレクトに商品を出すことになる。商品を出せば認識できるというのは、ある種の“記号”でもあって、記号を出せば相手には一発でわかるけれども、作品として見た場合にはそこだけ浮いてしまうので、作品性が損なわれるんじゃないかと思ったんです。
―― それでも、最終的には引き受けられたのですね。
高橋 はい。ガイナックスは、自分たちが満足するものを作るというだけじゃなくて、常に新しいことに挑戦していく集団でもあって、今回も“新たな挑戦”ができるんじゃないかと思いました。もし、記号的ではない、作品としてのメッセージ性を持った広告アニメーションを作ることができたら、それはどこにもない新しいものですよね。既存のものとは違う“新しいものを作る”というところがゴールになれば良いのかなと。スバルさん、そして広告を担当する電通さんともたくさんの話し合いをして、一緒に「放課後のプレアデス」を作っていくことができたと思います。


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