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石庭からセキュリティ、耐震性能まで随所に見える「こだわり」

DRだけではもったいない!印西のKVHデータセンター見学

2011年03月22日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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企業向けのITインフラサービスを手掛けるKVHは、千葉県の印西市に建設した新データセンターを報道陣に公開した。BCP(Business Continuity Plan)やクラウドサービスの基盤に最適という新データセンターは、高い耐震性、エコロジー、高セキュリティなどを追求したプレミアムな中身となっている。

千葉県印西市にあるKVH東京データセンター2

立地のよさゆえにあえて場所を公開

 KVHは米国フィデリティ投信グループによって設立されたサービスプロバイダーで、1999年の設立以来、自社のデータセンターやファイバー網を中心にしたサービスを手掛けている。特にデータセンター事業においては、高いミッションクリティカル性を要求される金融機関において多くの採用実績を誇るという。

 今回公開されたのは、同社が千葉県の印西市に建設したKVH東京データセンター2(以下、KVH TDC2)。印西デベロップメントプロジェクト担当 KVH DC2所長 イムティアズ・イサディーン氏がデータセンターの紹介と案内を担当した。

印西デベロップメントプロジェクト担当 KVH DC2所長 イムティアズ・イサディーン氏

 KVH TDC2は、高速・低遅延を旨とする金融サービスの接続に特化した都内のKVHデータセンター1に続き、関東近県で2番目となるデータセンター。おもに金融サービスをはじめとした企業のバックアップやクラウドサービスの基盤といった用途を想定している。というのも、KVH TDC2の所在地である千葉県の印西市は東京都内から約30km離れており、データセンターやBCPを対象とする金融情報システムセンターの安全対策基準も満たしている。

 また、活断層がない強固な地盤で、都内と地殻構造プレートが異なるため、同時に地震で被災する可能性が低いという点も大きい。一方で、「都内から約40分で来られるほか、成田空港からも約25分で着く」(イサディーン氏)ということで、アクセスも良好。あえて「千葉県印西市」と所在地を明らかにしている理由も伺える。

見学前の説明を行なったエントランススペースには、なんと日本石庭が!日本文化に造詣が深いフィディリティグループの会長が私費を投じて作ったそうだ

優れた免震性能と受電設備

 建物は6階建てで、サーバールームは4フロア/計4000㎡となっている。下図を見てわかるとおり、1・2階の吹き抜けが熱源機械室、3~6階まではサーバールームと空調室となっており、今回は地下から見学した。ちなみに同じモノがあと3つ作れるように用地が確保されており、市場ニーズに応じて建設を進める計画となっている。

KVH TDC2のサーバールーム(断面図)

 KVH TDC2の特徴の1つ目は、堅牢な土台だ。前述した強固な地盤に加え、ビル自体が強力な免震構造を誇っており、建物自体をゴム製のアイソレーターが浮かせ、U字および鉛のダンパーで揺れを吸収。地下に設置されたこうした免震部材により、両方あわせて最大600mmのズレを許容できる構造になっている。こうした立地および設備のおかげで、事故や災害のリスクを表すPML(予想損失最大額)の値が2.6%に収まっている。通常は10%前後ということで、保険利用の削減にも貢献する。地震大国である日本では、やはり重視したいポイントだ。

建物を支え、水平方向に柔らかく動く積層ゴムのアイソレーター

U字型のダンパー。強風による揺れも吸収する

こちらは鉛製のタンパー

 電力設備も強力。66KVの特別高圧電源をアクティブ/アクティブのループ方式で東京電力から2系統受電しており、1800W/㎡の電源供給容量を実現。サーバールームにおいては1.8kW/㎡の電力供給が可能となっている。1.0kW/㎡が一般的な他のデータセンターに比べ、高密度なIT機器の実装が可能ということだ。また、停電時に一時的に電力供給を行なうUPSは全負荷状態で10分稼働。「ブロックリダンダント」という方式で、4台に対して1台の共通バックアップ機が用意されているほか、2Nの構成もオプションで用意されている。さらにIT用UPSとは別に設備用UPSも用意されている。N+1構成のガスタービン型発電機も用意されており、72時間以上の電力供給が可能になっている。

受電した電気を変圧する巨大な特高変圧器

ブロックリダンダント方式のIT系のUPS

6階から外にある発電機を眺める

もちろんグリーンIT!冬場はフリークーリングも

 サーバールームは4階に渡っており、各フロア1000㎡で、合計4000㎡となる。天井までの高さは5400mmで、床下のフリーアクセスフロアが900mmとなっている。電力供給はラックあたり平均6KVaで、最大20KVaまで対応する。また、耐荷重はフリーアクセス床部分で850kg/㎡となっており、かなり高密度のIT機器実装が可能になる。

広大なサーバールーム。センサー等も備え付けられている

天井には黄色いパイプの消火設備が用意されている

床下にはケーブルなどの配線は行なわれず、冷風が吹き上げる

 サービスはラック単位で提供するコロケーションと、フロア/エリア単位で販売するホールセールの2種類のメニューが用意されている。ラックは耐震性に優れたKVHオリジナルの46Uのラックが利用できるほか、持ち込みラックも対応可能になっている。また、サーバールームの横には機器の梱包や作業を行なうためのステージングルームが用意されている。電話やインターネット回線も用意されており、2/3/4で間仕切りして使うこともできる。

サーバールームの横にあるステージングルーム

サーバールームの横に鍵やカードの収納場所が用意されている

 また、昨今のデータセンターは、省エネが必須要件となる。もちろん、KVH TDC2でも高効率な最新機器を利用し、年間平均でPUE1.5以下を実現している。空調は水冷式の空調機を採用しており、サーバールームの側面の空調機器室に設置されている。エアフローとしては、サーバールーム上部のホットアイルを通った排熱を空調機が取りこみ、10℃程度冷却した後、フリーアクセスフロアのコールドアイルから冷風を送り込む。電気設備はサーバールームからのリターンエアーを利用して冷してしまうという。「サーバールームと別に空調機械室が用意されているので、漏水などの心配はありません。空調機械室のメンテナンスにはKVHの担当のみが入り、サーバールームには基本的にお客様だけ入室できます」(イサディーン氏)ということで、セキュリティや漏水面でも問題なし。空調機で利用する冷水は、地下にあるターボ冷凍機で作成するが、冬季はフリークーリングを採用し、屋上の冷却塔で冷水を作成する。

サーバールームとは別に設置された空調機械室。右が空調機、左が電気設備になる

冷水を作るターボ冷凍機

7.5分間分のバックアップ用水も備蓄

屋上に設置された冷却塔。冬場はこの冷却塔で冷水を作成する(この日も寒かった!)

セキュリティも厳重!豊富なマネージドサービス

 セキュリティも相当厳重で、入館受付はもちろん、IDカードや静脈認証を用いた認証など、サーバールームまでいくつものチェックポイントを通過しなければならない。24時間365日のビデオ監視も行なわれており、安心して預けられる。

 もちろん、データセンターでの作業を代行するサービスも充実している。キッティングやインストレーション、電源のオン/オフ、LED目視、テープ交換など導入作業を技術スタッフが対応する「KVHスマートハンズ」や、24時間体制でのインフラ監視、管理、ITILをベースにした運用作業を行なう「KVHマネージド・サービス」なども用意されている。ネットワークに関しては、KVH自前の回線のほか、他の通信事業者のネットワークも引き込める。

 金融機関での要件に応えるデータセンターだけに、「堅牢さ」を体現したようなスペックであることが伺える。インフラとしての頑丈さはもちろん、電力設備、セキュリティ、グリーン性能などさまざまな角度で死角を見つけにくい、バックアップやDR用途だけではもったいないデータセンターといえる。

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