このページの本文へ

クラウドにフルスイング!KVHの熱い取り組みとは? 第1回

サービス統合もクラウドへの移行ももう心配なし

優等生KVHが泥くさい導入支援サービスを手がける理由

2011年09月05日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 記事協力●KVH

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

通信サービスやデータセンターなどを手がけるKVHの最近の売りは、サービス統合やクラウドへの移行も任せられるプロフェッショナルサービスだ。「やりすぎ?」とすら思える充実したサービスの裏には、顧客の信頼を勝ち取りたいがむしゃらさが感じられた。

 

優等生なサービスプロバイダKVHの唯一の弱点とは?

 クラウドコンピューティングと大震災の影響もあり、クラウドへの移行は一気に進んだ感がある。こうした中、サービス選定における決め手の1つが、データセンターとネットワークをワンストップで提供できるかという点だ。クラウドの構築において、データセンターとネットワークはまさに車の両輪であり、企業がシステムを安心して預けられる信頼性やサービス品質を確保するには、この両輪を確実に制御する必要がある。

 このようにデータセンターとネットワークをワンストップで提供できる数少ないサービスプロバイダがKVHである。米国投資グループ傘下の外資系企業でありながら、日本に本社とデータセンターを持ち、通信回線を自前で調達しているという同社のポジションはきわめてユニークだ。設立されて約10年、東京証券取引所の認定プロバイダとして金融機関を中心にサービスを提供してきただけに、信頼性やサービス品質は折り紙付きだ。インフォメーション・デリバリ・プラットフォームの提供を標榜し、「ハードウェア面では超低遅延なネットワークとセキュアで堅牢なデータセンター、ソフト面では金融業界の言葉がわかり、日銀や監督庁の監査を経験してきたというノウハウや人材があります」(KVH システム&テクノロジー本部 サービス・ストラテジー&デザイン部 部長 近藤孝至氏)。また、バイリンガルでのサポートを提供したり、アジアやヨーロッパにシームレスにつなぐための戦略パートナーを持つという点からも、グローバル対応度は同業他社に比べて高い。

 

KVHが提供するインフォメーション・デリバリ・プラットフォーム

 自社保有のデータセンターとネットワークを持ち、グローバル対応も十分。これらを顧客にあった最適な形にくみ上げる高級仕立て屋のようなサービスプロバイダといえるだろう。重厚長大な他のキャリアに比べ、コンパクトで小回りのきく企業組織で幅広いサービスを展開できるのも大きなメリット。「データセンターやネットワークという単位の事業部制ではなく、クラウドをはじめとするすべてのプロダクトに対して営業やマーケティング、エンジニア、サポートなどがすべて一貫して動けるようになっており、風通しは非常によいです」(近藤氏)。

KVH システム&テクノロジー本部 サービス・ストラテジー&デザイン部 部長 近藤孝至氏

 その同社の唯一の弱点が「知名度」である。KVHは、マスコミや業界紙に頻繁に顔を出す事業者ではない。むしろ、名の通った会社にデータセンターやネットワークを提供する「黒子」のような存在だ。クラウドを検討している企業は多いだろうが、KVHが選定する事業者の筆頭に踊り出すことは少ないだろう。もちろん、金融機関のみターゲットにしている場合は、それでもよいだろう。しかし、先頃力を入れる「KVH IaaS」をはじめとするクラウドサービスのように幅広いユーザーにアピールするサービスの場合、知名度の欠如は大きな課題となる。特に日本の会社に限らず、名前を知らない会社にいきなり自社のシステムを預けるようなことはないはずだ。ましてグローバル展開を想定していない中堅・中小企業にとってみれば、外資系というだけで敷居の高さを感じるだろう。

 

お客様の懐に飛び込むサービスへ

 こうした課題に対して、KVHが始めたのは雑誌や新聞に広告を載せることではない。KVHのサービス導入や運用を強力に支援するプロフェッショナルサービスである。これは単なるコンサルティングではなく、導入や運用に関わるオペレーションを顧客の代わりにやってくれるというものだ。近藤氏は、「クラウドには、ビジネス、アプリケーション、ハードウェア、OSといった縦の面、そしてネットワーク、サーバー、ストレージという横の面があります。こうした包括的なシステムに対し、標準サービスでカバーできないところを埋め、お客様の根本的な要件に応えていくというものです。KVH IaaSを中心にネットワークやシステムのインテグレーションを自社で行なうといってかまいません」と説明する。

 

 プロフェッショナルサービスが部署として設立されたのは2011年の3月。それまでは顧客の問い合わせに対して、随時マンリソースを調達してきたという。マネージド・サービスビジネスユニット プロフェッショナルサービス部 マネージャの熊田久氏は、「弊社はインフラ自体は持っていましたが、今までお客様の懐に飛び込むようなことをしてきませんでした。しかし、クラウドといっても基本は単なるリソース貸しなので、やはり実際に導入するお客様をサポートする必要があると思いました」とサービス開始についてこう説明する。

 

KVH システム&テクノロジー本部 プロフェッショナルサービス部 シニアスペシャリスト 熊田久氏

 こうしたプロフェッショナルサービスを提供した例として、熊田氏はKVH IaaSやインターネット接続を導入したある会社の事例を挙げる。同社は社屋の移転を機に情報系システムや外部向けサービスのサーバーを設置していたデータセンターの移設を2011年の春に行なった。この際に移設先となったのがKVHで、KVH IaaSのほか、通信サービスやユニファイドコミュニケーションなどのサービスもあわせて導入した。

 

 そして、この移設の際に活用したのが、プロフェッショナルサービスだ。「クラウドへ移行してシステムの管理負荷を下げたいというのがあったのですが、担当者様は、オフィスの移転があったのでとにかく時間が割けないという状態でした」ということで、熊田氏が情シス代わりとしてまさに八面六臂の働きを行なったようだ。

 

 移行対象はよくあるWeb、アプリケーション、データベースのシステムで、当初は過去のデータを新しいデータセンターのサーバーに移行するだけだったが、「担当者が辞めていたということもあり、システム自体がどういう構造になっているのかわからなかったのです。でも移行するまでの締め切りは決まっており、お客様は実際に困っていました」(熊田氏)とのことで、短期間でアプリケーションの解析までやったという。とはいえ、PHPのコンテンツが散在し、モジュールの組み合わせもわからなかったため、設計書以外の情報を実機にて調べてみたとのこと。また、脆弱性のあるモジュールや使われていないコンテンツをリストアップし、テストまでやったという。移行プロジェクト全体の仕切りやアプリケーション解析、テストのほか、「結局、メールが使えないという話とかあまりクラウドとは関係ない技術的なサポートまで包括的に対応しました」と熊田氏は笑って話す。有料サービスなので当たり前といえば当たり前だが、杓子定規な内容ではなく、顧客の真に必要としていることに柔軟に対応できたという点が大きい。

 

 このほかにも先物取引を行なっている金融機関においては、IaaSの導入に際してミドルウェアのインストールやストレージのマウントなどを行なうといった例もあったという。こうしたある意味「やりすぎ?」とも思えるプロフェッショナルサービスの背景には、とにもかくにも「お客様に信用してもらいたい」というがむしゃらさがある。クラウドというと「コスト削減」「自動化」という言葉が頭に浮かぶが、ある意味正反対の「泥臭い人間らしさ」に驚いてしまう。しかし、プロフェッショナルサービスにより、クラウドサービスが受注につながるケースも増えているという。

 

■関連サイト

この連載の記事

週刊アスキー最新号

編集部のお勧め

ASCII倶楽部

ASCII.jp Focus

MITテクノロジーレビュー

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード
ピックアップ

デジタル用語辞典

ASCII.jp RSS2.0 配信中