ボーカロイドをハブにしたゆるいつながり
―― FLEETはメンバーが2人辞めて、今回から佐藤さんのプロジェクトになったんですけど、それとボカロは関係はない?
佐藤 関係ないです。それはそれという感じ。アルバムのレコーディングの途中で「これが終わったら辞めたいんだけど」という話をされて、そろそろそんな感じだよねと。
―― するとずいぶん前の話ですね。じゃあ佐藤さんはボーカルができるのに、なぜボーカロイドなんですか?
佐藤 僕は自分でも歌えるし、頼める人も周りにいる。でもそうじゃなく、ボーカロイドを巡る文化的状況がすごく面白いし、可能性を感じているんです。
―― なるほど。音源としてだけではなく。
佐藤 音楽だけに限らないと思うんですけど、今は大きな物語のようなものが失われて、バラバラに小さな趣味ごとに価値観が島宇宙化してますよね。「大きな物語の終わり」とか、「ポストモダン」とか、前から言われてはいましたけど、本当の意味でそうなったのはここ3年くらいの話だと思うんです。
―― 確かにそうかも知れませんね。
佐藤 それまでは、そうは言われつつもテレビや雑誌の力が強かったから、みんな同じ情報を受け取って、同じような価値観を共有できていた。そこに訴える作品に、多くの人がグッと来た。そこにネットが高速化してきて、動画サイトやソーシャルネットワーク、さらにツイッターなんかが出てきて、情報は過剰に流動化した。その流れから自分の趣味に合うものに反応して、それが連鎖していく、みたいな世界になってますよね。
―― その結果として島宇宙化したと。
佐藤 ロックフェスもたくさん人は来るけど、バンド個々の力で呼んでいて、一体感はあまりないと思うんです。ライブハウスとかも、会場もジャンルもみんなバラバラで、あまり交わることがない。そんな分断が、どうなんだろうなこれは、と思っていたんです。ところが初音ミクなんかは、ボカロというだけで皆つながってますよね。
―― ボーカロイドはひとつのプラットフォームであるという話ですよね。
佐藤 そうです。音楽性もジャンルもバラバラで、普通だったら接点もないような人たちが、ボーカロイドをハブにして、ゆるくつながっていられる。それがなぜ可能になっているかというと、やっぱり初音ミクってキャラクターがいたからだと思うんです。その文化を知らない人たちに話しても、よく分かってくれない。でも自分で曲を作れば聴いてもらえるじゃないですか。だからボカロの曲を作ってみたかったんです。
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