アメリカに「turntable.fm」というサービスがある。ご存知の方には説明無用だが、それは残念ながらごく限られた人たちだけだろう。なぜならその存在が伝わり始めた矢先に、アメリカ国外からのアクセスが遮断されてしまったからである。
turntable.fmは、いわば「ソーシャルDJシステム」。ユーザーは自らルームを作り、あるいは他人のルームに入り、クラブのフロアを模した画面にアバターとして登場する。DJブースで曲をかけるなり、黙ってフロアで曲を聴くなりするというWebサービスだ。言ってみればそれだけのものだが、仮にサード・サマー・オブ・ラブというものがあったとしたなら、それはturntable.fmのことではないか、とさえ思えた。要するにハマったわけである。
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turntable.fm |
turntable.fmの楽曲は、“MediaNet”という音源データベースを使っていた。
各種ストリーミングサービス用に用意された音源なのだろう、アーティスト名や曲名で検索すると、かなりマニアックな音源までヒットする。この音源を使ってプレイするのが基本だった。プレイが始まるとリスナー側から「Awesome(やばい!)」や「Lame(サムい!)」などの評価を受ける。ウケればポイントが付くが、Lameの数が増えるとDJブースから引きずりおろされる。空気を読めない奴はダメというところに、このサービスの面白さがある。実際のDJと同じだ。
チャット画面もあり、フロアに集まった世界各国の人たちとメッセージを飛ばし合える。「音楽は国境を超える」という言葉をインスタントに実感でき、自分の知らない曲や、知らないバージョンをいくつも聴ける。音楽好きにとって、これほど面白いサービスもないわけだ。だが、そのturntable.fmも、日本では6月26日を境に使えなくなった。理由は「ライセンス(著作権)上の制約のため」という切ないもの。私と、私の友人たちは、この日から「turntable.fm難民」となった。
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turntable.fmは「due to licensing constraints」ということで現在は日本からアクセスできない | turntable.fmのアクセス遮断から程なくして登場した「rolling.fm」。見た目もそっくりで、こちらはアメリカ国外でも使えているが、まだ動作が不安定 |
そのとき目に止まったのが、「JamCloud」というAdobe AIRのアプリだ。
turntable.fmと違って、音楽のソースはYouTubeやSoundCloudを使うもの。映像も一緒に扱えるということで、turntable.fmとは意味の違うサービスだが、これこそまさに私たちが待ち望んでいたサービスでもある。なぜなら私たちが普段検索し、聴いている音楽ソースの多くはYouTubeなのだから。
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JamCloud。写真は筆者と今回の通訳である船田戦闘機らが遊んでいるところに、開発者のスティーヴンが現れた場面。ちなみに環ルナは、後に大杉久美子として知られることになるアニメソングの大御所 |
「That's what I want!!」(これが欲しかったんだ!)
私たちがそう小躍りしながらJamCloudで遊んでいたところ、突如、日本の古い歌謡曲をかけるDJが登場した。彼の名前はスティーヴン・サックス(Steven Sacks)、なんとこのサービスの開発者であった! 私たちはヤンヤの喝采を送り、すかさず取材をとりつけたのである。
取材当日の9月10日は、アメリカ西海岸を原因不明の停電が襲った日。Stevenの使っていたインターネットプロバイダーも途中でシャットダウンするなど、かなりギリギリの状態だったが、なんとか聞きたいことは聞けた。彼はロサンゼルス在住のプログラマーで、自分でDJをするほどの音楽好きでもある。折角の機会なので、YouTubeを中心にしたアメリカのネット音楽事情についても聞いてみた。

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