電波法改正案からオークションが消えた
このコラムでも何度も取り上げてきた周波数オークションをめぐる論争が、意外な幕切れを迎えた。昨年9月の閣議決定では「電波の有効利用のため、周波数再編に要するコスト負担についてオークション制度の考え方も取り入れる等、迅速かつ円滑に周波数を再編するための措置を平成23年度中に講じる」と書かれていたのに、2月8日に閣議決定される予定の電波法改正案には、「オークションの考え方」がまったく取り入れられていないのだ。
700/900MHz帯の割当については、ソフトバンクの孫正義社長などが異議を唱えた結果、周波数割り当ての見直しのために結成された「ワイヤレスブロードバンド実現のための周波数検討ワーキンググループ」の昨年11月の取りまとめでは、電波部のいったん決めた案がくつがえされ、国際周波数に合わせた割り当てに変更された。これは日本の電波政策史上初の画期的な出来事であり、原口一博総務相(当時)の政治主導の成果である。
このときも「移行に要する経費の負担可能額の多寡やサービス開始時期等を踏まえて事業者を決定する方法を導入すべき」という表現で、経費負担額によって業者を選定する方針が書かれていたが、これはオークションとは言えない。たとえば焦点になっている770~806MHzのラジオマイクについては、業者は1000億円という移行費用を申告しているが、この帯域の価値は5000億円程度と評価されている。したがって移行経費をまかなうオークションを行なうと落札額は1000億円をはるかに超え、その差額を誰が取るのかが問題になるだろう。
そもそも「オークションの考え方を取り入れる」という表現が曖昧で、この調子では骨抜きになるのではないか……と危惧していたら、法案からオークションは完全に姿を消していた。「特定基地局(携帯電話基地局)を新規に開設しようとする者が、既存無線局の周波数変更に要する費用を負担する」という考え方は取り入れられたが、その費用負担を決めるのは総務省だ。

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