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電子書籍を選ぶ前に知っておきたい5つのこと 第4回

実は重要! よくわかる電子書籍フォーマット規格!!

2011年01月27日 22時00分更新

文● 海上忍

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 一口に「電子書籍」といっても、実はそのフォーマット(データ形式)によってさまざまな種類が存在する。そのため、気に入った電子書籍を読む前に、その本がどのフォーマットのものなのか把握して、サポートしている閲覧用ソフト(あるいはハードウェア)を手に入れなければならない。いわば、VHS対ベータ、Blu-ray対HD DVDのような規格争いが電子書籍においても繰り返されており、主流となりそうなフォーマットはどれか、ある程度気に留めておく必要があるのだ。

 ユーザーとしては悩ましいところだが、閲覧用端末を数多く売りたいメーカーの思惑、不正コピーは避けたいがより多く流通させたい出版社の本音、場所や時間を気にせず紙同様に楽しみたい消費者の心情、その狭間で落とし所を見つけようという努力の結果が、フォーマットとしての電子書籍だといえる。

 電子書籍フォーマットは、いくつかの基準により分類できる。その分類を把握したうえで、電子書籍フォーマット個別の解説に進むことにする。

レイアウト方式の違い

 電子書籍フォーマットは、紙の印刷物と同様に所定のデザインに従って文字と図版を決まった場所に表示する「固定レイアウト方式」と、表示用デバイスや閲覧ソフトの設定に応じて文字と図版の流量を変えて表示する「可変レイアウト」の二方式に大別できる。

 固定レイアウト方式のメリットは、制作側が意図した通りのデザインで表示できること。その代表的な存在が「PDF」(Portable Document Format)で、紙の印刷物向けのデザインそのままを電子書籍ビューワーで再現できる。「JPEG」や「PNG」といった静止画ファイルも、デザインを変更できないという意味では固定レイアウト方式に分類できるが、拡大表示するとジャギーが発生し滑らかさが失われてしまう。その点PDFは、文字やベクター画像はスケーラブルで、どのような画面サイズ/解像度でも適切に表示できるため、静止画ファイルより優れているといえる。

 ではデメリットは何かというと、レイアウトを崩せないことだ。表示装置のサイズが変われば情報量(文字量や画像の点数)も上下するが、固定レイアウトではそれができない。作成時に想定された表示領域以外の表示、例えば画面サイズの大きなiPadとスマートフォンのiPhoneで同じ固定レイアウトの電子書籍を見た場合、iPadでは1ページにより多くの文章や画像を入れたくてもできないし、逆にiPhoneでは文章や画像が多すぎて小さく読みにくく感じる場合もある、という具合だ。

 可変レイアウトは、HTMLで作成されたウェブページをイメージしてもらうといいだろう。ハードウェアの画面サイズに沿った情報量の表示が可能なうえ、ハードウェアを縦横どちらの状態で持って閲覧しても、それに応じた表示を行ないやすい。この点がメリットで、小説など文字主体の電子書籍に向いている。デメリットは、雑誌やマンガのような凝ったレイアウトデザインの実現が難しい点だ。

仕様策定プロセスの違い

 グーテンベルクによる活版印刷の発明以前も以後も、「(紙に)文字や図を記録し他人の閲覧に供する」という書物のあり方に変わりはなく、その制作に際しての制約も課されていない。大量の部数や特殊な印刷技術を要する場合はともかく、極端な話、紙と筆記具さえあれば誰でも書物は制作できる。

 一方電子書籍の場合、いつでも気軽に制作できるわけではない。制作プロセスはコンピューター上で完結することが前提であり、表示用端末や閲覧ソフト、流通業者によって「フォーマット」が異なる場合が多いため、どのような読者を対象とするかを念頭に置いたうえで出力用フォーマットを決めなければならない。

 そのフォーマットは、単独あるいは少数の企業が策定プロセスに参加し以後の権利を保有する「プロプライエタリ(proprietary)なフォーマット」と、多数の企業や個人が策定プロセスに参加した「オープンなフォーマット」の2種類に大別できる。

 プロプライエタリなフォーマットの例としては、AmazonのKindleが採用する「Topaz」、ボイジャーの「.book」(ドットブック)やモリサワの「MCBook」が挙げられる。またセルシスとボイジャーが、「BookSurfing」フォーマットに対応するフィーチャーフォン・スマートフォン向け総合電子書籍ビューワー「BS Reader」(旧:BookSurfing)を提供している(.bookフォーマットをフルサポート予定)。

 これらのフォーマットで電子書籍を作成する場合には、契約を交わすなどして仕様書や専用の制作ツールを入手し、所定の方法で作業することが原則だ。

 オープンなフォーマットには、電子出版関連の企業を中心に構成される米国の標準化団体IDPF(International Digital Publishing Forum)が推進する「EPUB」が挙げられる。プレーンテキストやHTML/XMLのように、電子書籍フォーマットに応用可能な(狭義の電子書籍フォーマットではない)技術も、オープンだからこそ電子書籍を支える基礎技術として採用された面がある。オープンなため特定の制作ツールを用意する必要はなく、アプリケーションを選ぶ自由度は高い。

 PDFと、シャープが策定した電子書籍フォーマット「XMDF」(ever-eXtending Mobile Document Format)は、プロプライエタリとオープンの中間的存在といえる。PDFは、「電気分野を除く工業分野」における国際標準化機構ISO(International Organization for Standardization)に、XMDFは「電気/電子工学、関連技術」を扱う国際電気標準会議IEC(International Electrotechnical Commission)に、それぞれ認定されている国際標準規格だ。

 PDFについては、米国の工業分野標準化団体ANSI(American National Standards Institute)内のCGATS(Committee for Graphic Arts Technical Standards)がPDF/X(PDF for Exchange)の規格化を行ない1999年にISOに提出して、2001年に国際標準化がなされた(ISO15930)。

 また2007年には、Adobeがエンタープライズコンテンツ管理に関する国際的な非営利機関AIIM(The Association for Information and Image Management)にPDF 1.7の全仕様を譲渡し、そのうえでISOへの提出がなされた。AIIMは、PDF/A(PDF for Archive、ISO 19005)、PDF/E(PDF for Engineering、ISO 24517)、PDF/UA(PDF for Universal Access、ISO/DIS 14289)、PDF/H(PDF for Healthcare)の管理を行なっている。

 XMDFは、規格を制定するまでのプロセスがオープンではなく、特定企業が仕様として完成させたものを公開する形となっている(IEC62448)。

機能の違い

 電子書籍フォーマットを選ぶ基準は、出品先のオンラインストアが定める形式だからということが最大の理由として挙げられることが多い。しかし、フォーマットごとの機能差もまた判断の基準となりうる。

 ここ日本の場合、小説など読み物の多くは縦書きで右から左へとレイアウトされているため、これに対応するかどうかは重要なポイントだ。ルビや圏点、縦中横といった日本語組版で多用される表示は、海外発の電子書籍フォーマットではサポートされないことが多いため、これらを併せて「日本語をサポートしているかどうか」の判断基準とする。EPUBやTopazなど世界規模で流通しているフォーマットは、このサポートが後手に回る傾向があり、その意味では日本発の3フォーマットとPDF以外は(現状では)日本語対応でないといえる。

 図版の対応も重視される。写真などのラスターデータ(サイズ固定で見るイメージデータ)にはJPEGやPNGを使うとして、イラストなどのベクターデータには拡大してもジャギーが発生しないPostScript/PDF、SVGが好まれるからだ。

 ほかにも、動画や音声といったマルチメディアデータ、ユーザーの操作により動的に変化する要素(インタラクティブ性)、フォントの埋め込み、デジタル著作権管理機能(DRM/Digital Rights Management)など、電子書籍フォーマットにより対応が異なる機能は多い。

主な電子書籍フォーマットと特徴(2011年1月現在)
名称 中心となる
団体
拡張子 オープン DRM 静止画 音声 動画 リフロー 縦書き
AZW/MOBI、Topaz(Kindle) Amazon .azw、.tpz × ×
CEBX 方正 .cebx
EPUB 2 IDPF .epub ×
EPUB 3 IDFP .epub
HTML5/CSS3 W3C .html ×
MCBook モリサワ .mcb ×
Mobipocket Mobipocket .mobi、.prc、.azw × ×
PDF Adobe .pdf
XMDF シャープ .zbf、.mnh
.book ボイジャー .book、.ttz ×
プレーンテキスト なし .txt × × × × × ×

リフロー:端末や閲覧ソフトの設定に応じて画面あたりの文字数を自動調整する可変レイアウト

主な電子書籍フォーマットの閲覧環境と作成ツール(2011年1月現在)
名称 閲覧可能なプラットフォーム 作成ツール
Android biblio Leaf SP02 iOS Kindle PC Reader フィーチャーフォン
AZW/MOBI、
Topaz
× × × Kindlegen
EPUB 2 △(Wave Text Viewer) 各種
EPUB 3 各種
CEBX × × × × 方正飛翔など
HTML5/CSS3 各種オーサリングツール
MCBook × × × × × MCBook Maker
Mobipocket × × × Mobipocket Creator
PDF Adobe Acrobatなど
XMDF △(GALAPAGOS) △(電子文庫パブリ for iPhone) × XMDFビルダー
.book × × × ○(BS Reader) BS BookStudio
プレーン
テキスト
汎用のエディター

(次ページへ続く)

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