長らく噂されていたiPadユーザー向けの日刊新聞アプリ「The Daily」が、ついにその姿を現わした。既存の新聞や雑誌を電子化してiPad向けに提供する事例はこれまでにも数多あるものの、”iPadのみ”をターゲットとして提供が行なわれる主力媒体は、The Dailyがほぼ初のケースとなる。
The Dailyを発刊するのは、傘下にFox NewsやWall Street Journalなどを持つ米News Corporation(News Corp.)だ。また新媒体発刊にあたって、Appleの協力のもと「In-App Subscription」と呼ばれるアプリ内コンテンツ課金と定期購読(サブスクリプション)の仕組みを導入している点で特徴がある。
当初、The Dailyは12月中の発表といわれていたが延期され、さらに1月19日の日程で米カリフォルニア州サンフランシスコ市内の美術館で予定されていた発表イベントも突然キャンセルされた。1月19日のイベントでは、News Corp. CEOのルパート・マードック(Rupert Murdoch)氏とApple CEOのスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏がステージに登壇して、この記念すべき製品サービスを紹介する予定だったといわれているが、件のジョブズ氏は病気療養のため休業中となった。
そして、発表会イベントが2月2日開催と正式アナウンスされ、登壇者は、マードック氏と、米AppleからはiTunes部門トップのエディ・キュー(Eddy Cue)氏となった。発表同日よりThe Dailyの提供が開始され、ユーザーが実際に試せるようになっている。
The DailyはApp Storeからダウンロードが可能で、本体アプリそのものは無料だ。コンテンツ部分の購読が有料となっており、Verizon Wirelessの協賛により2週間の無料購読期間が設けられている。
米国のiTunesアカウント限定となるが、もし現地のアカウントをお持ちの方なら、ぜひ無料購読期間を利用して一度アプリを試してみてほしい。本稿では、The Daily登場までの背景や現在コンテンツ事業者の間で問題になっている事柄など、長い解説は抜きにして、まずはThe Dailyそのもののレビューを行なっていこう。
The Dailyを実際に試す
現在新聞社や出版社は、既存コンテンツをiPadなどのタブレットデバイス向けて提供すべく、「Digital Publishing」(以下、デジタル出版)と呼ばれる仕組みを使ってコンテンツの電子化を進めている。
代表的なものは米Conde Nastの「WIRED Magazine」(日本でも購入可能)で、既存の雑誌レイアウトをそのままiPadなどタブレット端末上で再現しつつ、より豊富な写真ライブラリーやアニメーション、動画などを追加してリッチなコンテンツとして提供しようというものだ。「紙にはできない新しい試み」というのがコンセプトとなっている。
また同時に、部数減少に苦しむ出版界の現状を振り返り、デジタル出版の拡大で底上げを行なっていこうという狙いもある。
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