神奈川県小田原市。後北条家の城下町として名高い同市に、日立製作所(以下、日立)のRAIDシステム事業部が開発・生産拠点を置く。前編では小田原工場を見学させてもらい、エンタープライズストレージトップシェアを誇る同社のものづくりを見せてもらった。
45年の歴史を持つ小田原工場の生産改革
日立の小田原工場の設立は、いまから45年前の1966年にさかのぼる。コンピューターの周辺機器工場としてスタートし、1967年に磁気ディスク装置を出荷開始。その後、1992年のストレージシステム事業部の設立以来、エンタープライズおよびミッドレンジ向けのディスクアレイ装置の生産を行なってきた。グローバルで見ると、小田原のほか、米国のオクラホマ、フランスのオルレアンにも工場を持っており、この3工場が分担してストレージ製品の生産を担っているという。なお、ハードディスクドライブ事業に関しては、2003年に日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)に移っている。
工場見学に先立って小田原工場での製造プロセスについて、生産統括本部生産技術部 部長の服部俊康氏に説明してもらった。製造プロセスは大きく、プリント基板を製造するPCBA(Printed Circuit Board Assembly)、PCBAを装置に組み込むFA(Final Assembly)、そして品質確保のための試験を行なうFT(Final Test)という3つに分けられる。
ものづくりの現場として、小田原工場でも品質向上、高いパフォーマンス、コスト削減、生産性の向上などを目指した生産改革がつねに動いている。PCBAに関しては「2010年4月にPCBAプロセスを小田原工場に集約化し、品質の均一化を実現しました。また、欧州や米国にあった生産設備を移管し、新規に高速なラインを構築して、スループットを向上させました。13ラインから9ラインに減らしたのに、生産効率はキープできています」(服部氏)といった工夫だ。装置組み立てに関しても、製品構造に最適な組み立て方式を採用することで生産工程を短縮化したり、梱包作業自体もラインに統合した。
こうした生産改革の背景には、低価格で受託生産を行なうEMS(Electronics Manufacturing Service)メーカーの台頭がある。服部氏は「特にコモディティ化した商品に関しては、日本で生産すると高くなるのではといわれてしまいます。ですから、私たちもEMSメーカーに負けないよう、コスト削減や生産効率の向上に努めています」と語る。もちろん品質向上に関しては、部品不良や作業不良の低減を徹底的に行なっており、「部品あたりの修正率を調べてみると、EMSメーカーと桁自体がそもそも違います」と信頼性の高さをアピールする。
以下の工場見学も生産改革の工夫とあわせて見てもらうと、興味深いだろう。さっそく見ていこう。
RFID活用と部品を運ぶAGV
まず案内されたのが、PCBAやFAの現場で利用する部品を供給する現場。外部から運び込まれた部品が入庫され、各現場に配布される。ここで活用されているのが、RFIDである。各部品はRFIDタグがつけられた部品収納箱(かよい箱)に入れたうえで、倉庫に格納される。小田原工場では、この倉庫から部品供給をRFIDにより自動化しており、現場のセルの作業状態に応じて、必要な部品を部品収納箱単位で自動的に供給する。この供給にはAGVと呼ばれる無人搬送車が使われており、このAGVが工場内の廊下や現場を行き交っている。
AGV導入の目的は、部品供給の効率化。工場内の各現場の奧にまで入って、部品を供給してくれる、役に立つお手伝いロボだ。部品収納箱が空になり、セル作業台から取り外されるとその情報がRFIDを用いて自動倉庫に伝わり、補充される。まさに、Here The Futureな生産現場といえる。
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