アニメ業界に話を聞いてもらう唯一の方法は「成功してみせること」
まつもと「現状はテレビアニメのビジネスモデル自体が出たとこ勝負になってしまっています。ヒットし始めた原作を端から順にテレビアニメ化という状態なので、こけたときに大変なことになる」
安藝「そうですね。テレビアニメにかかる予算は億単位です。2~4億、もっと大きな予算もありますね。生涯年収以上です。この額は、一生懸命作りました、なんて言い訳が通用する額じゃないと思います。売れませんでした、けどこれは良い作品です、という言葉もよく聞くんですが、じゃあ君ら、何のためにやってるんだと。
多分、儲けたいからとは言いづらいと思う。ただ、少なくともたくさんの人に見てもらいたいという気持ちはあるはずですよね。しかし見てももらえていないものも少なくない。そもそも見てもらえないことがわかっているものを作る。ならもう1話目で答えが出るじゃないですか」
まつもと「アニメファンが言うところの、『1話で切った』というやつですね」
安藝「視聴者が1話で切ったという判断がついたら、2話ぐらいで作るのをやめる判断もあると思います」
まつもと「止められるものなら、そうしたいというのが本音でしょう」
安藝「止める止めないはいろんな理由で現在は議論の外なのですが、止められないのも大きな問題かもしれませんね。制作リソースがもったいないなぁと思うこともあります。人気のアニメ作家陣は先々まで予定が入ってますからね。止められないなら、最初から1話しか作らなければいいのに……とか。
まあ、それを内部からでは簡単に言えないことはわかります。じゃあ外部から言えばいいのかというと、やはり議論の外です。唯一の方法は、成功するしかない。うまくいったとなれば、耳を貸してくれるかもしれないないと。
これを言うと怒られるかもしれませんが、ブラック★ロックシューターというプロジェクトについては、僕たちは種づくりが精一杯。ここから先は僕たちより上手な人がいっぱいいる。大手さんが引き継いでくれれば絶対さらに大きくなる」
まつもと「ここから先――テレビとか、劇場とか」
安藝「そう。大手さんが、“当たるか否か分からない作品を当たるようにすること”についての決定的な力を持っているわけではないのです。
でも、“当たる確率が高まった作品に大きなリソースを投入して大当たり/スマッシュヒットにすること”はやはり上手い。そういう仕組み・役割なんです」
まつもと「油田みたいですね。『一所懸命やって掘り当てました。後のプラント作りは商社さんお願いします』という」
安藝「それに近いし、そもそも掘って当たったところで、ヱヴァでも100万枚は売れないわけですよ。そんな超ハイリスクなビジネスモデルに、いきなり何億も突っ込めるかよ、というのはある。“アニメを愛している”という奇麗事を抜いてしまうと、多分、誰もやれない」
まつもと「そうですね。最初はいくつか小規模で始めて、当たる確率が高まったものに対してのみ、より大勢の人間が取り組む、という流れになれば、大分リスクを減らせるでしょう。そして結果的に制作現場の台所事情も改善されていくのでは」
この連載の記事
-
第102回
ビジネス
70歳以上の伝説級アニメーターが集結! かつての『ドラえもん』チーム中心に木上益治さんの遺作をアニメ化 -
第101回
ビジネス
アニメーター木上益治さんの遺作絵本が35年の時を経てアニメになるまで -
第100回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』で契約トラブルは一切なし! アニメスタジオはリーガルテック導入で契約を武器にする -
第99回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』を手掛けたダンデライオン代表が語る「契約データベース」をアニメスタジオで導入した理由 -
第98回
ビジネス
生成AIはいずれ創造性を獲得する。そのときクリエイターに価値はある? -
第97回
ビジネス
生成AIへの違和感と私たちはどう向き合うべき? AI倫理の基本書の訳者はこう考える -
第96回
ビジネス
AIとWeb3が日本の音楽業界を次世代に進化させる -
第95回
ビジネス
なぜ日本の音楽業界は(海外のように)ストリーミングでV字回復しないのか? -
第94回
ビジネス
縦読みマンガにはノベルゲーム的な楽しさがある――ジャンプTOON 浅田統括編集長に聞いた -
第93回
ビジネス
縦読みマンガにジャンプが見いだした勝機――ジャンプTOON 浅田統括編集長が語る -
第92回
ビジネス
深刻なアニメの原画マン不足「100人に声をかけて1人確保がやっと」 - この連載の一覧へ