アスキー総研は2010年3月、コンテンツに関する国内初の大規模定点調査「MCS(Media&Contents Survey)」を発表した。そして9月にはそのMCSを元に、簡単な操作でクロス集計が行なえるiPad向けアプリケーション「MCS Elements」をリリースし、話題を集めている。今回は、アスキー総研所長の遠藤諭氏にMCSのデータから見えるアニメ消費の今を聞いた。
失われた富はどこへ行ったのか?
まつもとあつし「以前、変わるアニメ業界というテーマで、アニメDVD・Blu-rayの売上が落ちていること、しかしネット配信がその減少分を補えていない、ということを取り上げたところ、かなりの反響がありました」
遠藤「富が失われて、どこかに行ってしまったわけだ。タイトルが減ったからというわけではないの?」
まつもと「確かにタイトル数は減っています。日本動画協会の調査によれば、ピークだった2006年で250を超えていたテレビアニメの作品数が、2009年には220ほどまで減っています。しかし、売上の比率を見ると、(テレビアニメのパッケージ化が主であるはずの)ビデオの落ち込み幅はタイトル数の減少よりも大きいと感じます」
遠藤「ホントだね。無料でネットで見て満足してしまっている、ということはあるかも知れない。まずは、そもそもアニメをどういう層の人たちが消費していて、ビデオ購入に至ってるのかMCSで見てみようか」
MCSに現れるアニメユーザーの動向
遠藤「このデータでやはり目につくのは、20代男性はレンタルで映像作品(注:グラフ脚注のとおりアニメに限定していない)を見ている点だね。セル(購入)は30代よりも上の世代に偏ってる」
遠藤「でも、ユーザー層を“アニメをパッケージソフトで見てる層”ではなく、ジャンルを絞らずに見ると、セルビデオを購入しているのは、もっと高年齢層になるので、アニメについては比較的20代も買ってくれている、ということは言えるかもしれない。
下の図を見ると、ヱヴァンゲリヲン新劇場版でその傾向は顕著だね。ガンダムはシリーズの歴史が長いせいか、もう少し年代は高いところまで広がりを見せてる」
まつもと「アニメの視聴者層自体、若年層(10代~20代)の比重が高いことも影響しているのでは。特典版(フィギュアや特典映像などが付加されたセル商品。通常版よりも高い価格が設定される)に対する需要が高いというのも、このジャンルの特徴なので、そちらが目的となっている可能性も高そうです。
個人的には“高品質な映像を視聴するため”というよりも、グッズとして所有し手元に置いておくために基本アイテムとして購入しているのではと感じています。
MCSの調査結果を見ていても感じるのは、特典版の購入意欲が高いということはやはりフリーミアムな映像そのものを買っているわけではなくて、特典、すなわちネットにアクセスしても存在しない/入手しづらいものに対して飢餓感がある、反応するということです」
遠藤「“特典版のビデオを買いますか?”という調査も行ないましたが、それは顕著に現われてますね。本当は経年変化を見られるデータがあれば、もっと具体的に語れるんだけど、MCSは今回が初めてのリリースなので、そこまでは出し切れないのが歯がゆいところなんだよね。
MCSはアニメに関する質問項目も豊富なので、次回も同じ質問を行なって結果を見ればヘビーユーザーの動向はわかるかもしれない。調査の準備も進めているので期待してください」
まつもと「なるほど、しかし他のジャンルに比べればセルビデオの購入度合いは高いとは言え、やはり熱心に見ている層(20代以下)と、セルビデオを購入する層(30代以上)のミスマッチは大きいと言えそうですね」

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