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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第17回

グッドスマイルカンパニー安藝貴範社長に聞く

ブラック★ロックシューターが打ち砕いたもの(2)

2010年12月07日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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造形の美しさとプレイバリューを両立させたマックスファクトリーの看板シリーズ「figma」(販売をグッドスマイルカンパニーが担当)

「スターシステム」としてのミニコンテンツ制作

安藝「正直、総制作費が1億でも5億でも、制作現場に渡るお金って工程で割るとそれほど変わらないと思うんですよ。

 5億突っ込んだほうが、もしかしたら厳しいかもしれない、5億のバジェットの中で品質上げろみたいな話になって、手間は2倍3倍になったりする。でも現場に2倍3倍のお金が届くわけじゃない。

 なにより、本当に優秀なのは誰かということが、資金を出した側からは見えない状態でお金が使われていく。これは、自分の技量に見合った代金を要求しないクリエイター側にも責任はあると思います」

まつもと「好きだからやっている、お金を目的とするのは何か間違っている、という風潮になっていますよね」

安藝「絵を描くことが僕たちの満足だと現場は言う。まるで求道者のような言動ですよ。そして、求道者のように生きるしかない風潮を招いたのは、やはりテレビアニメのビジネスモデルが成立していないからじゃないのかと。行き詰っているなら、それ以外を模索するべきでしょう。

 ストレートにビジネスとして成立していないところはハッピーじゃない。成立していないのだとすれば、それを続ける無駄さ加減というのは、好き嫌いの話じゃなくて、不幸のモデル以外の何物でもないということを認めなければいけない」

「エジプトなどの古代文明に興味があるので、大好きな考古学者の吉村作治先生と仕事がしたい一心で食玩の企画(コレクト倶楽部 古代文明編)を練ったこともあります(笑)」(安藝社長)

まつもと「もしかして、安藝さんはこれまでにも同じような不条理を感じた経験があるのでしょうか?」

安藝「フィギュアに関しては、同様な不条理さが大いにあったと思いますね。……そもそもアニメのキャラクターを立体に起こす作業はすごく難しいんですよ。目の大きさひとつとっても現実とかけ離れた体型ですよね。フィギュア業界では十数年間、これをどこから見ても破綻がないように見せるために技術革新を続けてきました。

 鼻をこういうふうにつまみましょうとか、目の下のここの面をこう縦に起こしたほうが横から見たときに自然であるとか。絵のトリックを立体で構築し直すための作業が、のべ数千人の手によって行なわれています。そしてやっと10年ほど前から“答え”が出始めたんですよ。

 しかしその状況を外から眺めていると、現場は自分たちの持っている表現能力のポテンシャルを知らない状態で、食うや食わずだった。搾取とか虐げられているとかではなく」

まつもと「やはり求道者なんですね」

安藝「それじゃやっぱり寂しいし、ゴーイングコンサーンさせたいと思って、この業種に踏みいったんです(Going concern:元は事業継続の意。ここではクリエイターが永続的に食べられる仕組みの確立を指す)。

 時間はかかったけれども、彫刻者たちが自分たちの腕を磨きながら満足を持ってやっていけるという状態を、なんとかここ5年、10年で形にはできたかなと思います。まだまだですが、一定の収入を得つつ働ける環境ができてきたと思います」

まつもと「印税を払うような形なんですか?」

安藝「いろんなパターンがありますね。外注の方だとロイヤリティ方式もあります。腕を見込んで頼む場合だと、当たれば1000万円にもなります。

 フィギュアの原型制作は個人作業だから、一攫千金が大いに期待できる世界です。対してテレビアニメは大勢でやるから、どうしても分配がフェアになりづらい。

 そこでブラック★ロックシューターのような小品であれば、少ない人数で作れるのでスタッフの顔が見える。一体誰が貢献したかも分かりやすい。それによって制作スタッフ内に、(フィギュアの彫刻者のように)一攫千金を掴むスターが生まれればと思っています」

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