無料で67万枚配布 アニメビジネスを変える一手
時間差をつけて映像の事業展開を行ない、収益機会の最大化を図るウィンドウ・ウィングモデル、そして、作品への認知・共感を高めて関連製品でのビジネスを展開するグッドウィルモデル。この2つを紹介した「メディア維新を行く」アニメ編第2回にはアニメ視聴者だけでなく、業界関係者からも様々な反応があった。
その中でグッドウィルモデルの典型例として、「ブラック★ロックシューター(B★RS)」を取り上げたところ、まさにその展開を担う、グッドスマイルカンパニーの安藝貴範(あきたかのり)社長ご本人からコメントを頂いた。
元々アニメーションの制作費の回収は、「鉄腕アトム」の時代に遡る。アトムの商品化(お菓子や玩具などにキャラクターを提供し、そのロイヤリティを得た)ビジネスに原点がある。
そして現在、アニメDVDの販売が芳しくない中、フィギュアを中心としたビジネスを展開してきたグッドスマイルカンパニーが、なぜ映像分野に進出しているのか? そして、60万枚を越えるDVDを無料配布したその目的と効果について安藝社長に詳しくお話を伺った。
「ブラック★ロックシューター」とは?
「ブラック★ロックシューター(B★RS)」とは、イラストレーターhuke氏が「pixiv」に投稿した1枚のイラストから派生した絵画、音楽、PV、映像コンテンツの集合体。
イラストにインスパイアされた同名のオリジナル曲は、ニコニコ動画にアップされるや否や大好評を博し、300万超という再生回数と共に初音ミクの代表曲の1つとなった。
2009年にはアニメ化が発表され、グッドスマイルカンパニーを主幹事とする製作委員会の下、人気アニメ監督・山本寛氏の制作会社「Ordet(オース)」による制作が進められた。そして2010年には本編DVDを雑誌「ホビージャパン」「アニメディア」「メガミマガジン」への付録として配布するという前代未聞の展開方法が告知され、アニメビジネスの新モデルとして話題となる。
今春には満を持してグッドスマイルカンパニーからアニメ版のフィギュアが発表され、その時点で16万個を超える予約が殺到。年末発売のアニメBlu-ray版も予約好調だという。日本で最も成功したUGCの1つと言えるだろう。

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