まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第15回
本を起点にゲーム・グッズ・映像をつなぐ架け橋を目指す
垂直統合プラットフォームとしてのBOOK☆WALKER
2010年11月13日 09時00分更新
2010年10月26日、角川グループが電子書籍プラットフォーム「BOOK☆WALKER」を立ち上げると発表した(関連記事)。そして、立て続けに28日には「ニコニコ大会議2010秋」において提携も発表されている(関連記事)。
エンターテインメントコンテンツのバリューチェーンを俯瞰したとき、「本」はその源流に位置している。ライトノベルなどを原作とするテレビアニメは毎クール誕生し、そこからグッズやゲームなどのライセンスビジネスが拡がっているのだ。
『涼宮ハルヒの憂鬱』(角川スニーカー文庫)、『フルメタル・パニック!』(富士見ファンタジア文庫)、『とある魔術の禁書目録<インデックス>』(電撃文庫)など、角川グループは若年層からの支持が厚いキラーコンテンツを多数有している。また、書籍出版から映像事業まで自社グループに機能があり、垂直統合可能な体制にあるのも特徴的だ。
一方で、先日(2010年10月29日)発表された第2四半期決算では、出版事業は黒字であるものの、映像・クロスメディア事業の赤字が依然足を引っ張っていることも示された。
果たしてBOOK☆WALKERはクロスメディア展開の起爆剤となるのだろうか? その展望について、BOOK☆WALKERの運営を担当する、角川コンテンツゲートの安本洋一常務取締役に聞いた。
電子書籍に留まらないコンテンツ配信プラットフォーム
――10月26日の記者発表を受けて、「角川グループが直営の電子書籍配信プラットフォームを開始」という報じ方をしたメディアが多かったようです。
安本 実際のところは「コンテンツ配信プラットフォーム」と捉えていただくのが正解だと思います。角川にはムービーゲートという映像配信を行なっているサイトもありますし、キャラアニのようなグッズのeコマースを専門とする会社もあります。
一方、角川グループでは現在ソーシャルゲームを2作品(同名のライトノベルを原作とする『バカとテストと召喚獣』『伝説の勇者の伝説』)展開しており、近日中にはさらに7タイトルをリリース予定です。これらはウェブブラウザーで動作しますので、当然何らかの形でBOOK☆WALKERにも展開します。
角川グループホールディングスの佐藤辰男社長からは、「角川グループのコンテンツを活かした、遊園地のようなプラットフォームにしてほしい」というリクエストをもらっています。
――コンテンツに関わるデジタルサービスを垂直統合するような位置づけですね。
安本 そうなります。
――しかし、先日の決算ではまさにそのクロスメディア事業の赤字がクローズアップされました。BOOK☆WALKERの登場でどう改善されるのでしょうか?
安本 ストック系のコンテンツをデジタル化してビジネスをする、という事業は始まったばかりです。これまでは携帯電話3キャリアで電子書店「ちょく読み」を展開しており、実は前年比130~140%も伸びているんです。
スマートフォンの利用が一般的になるにつれて、この分野は飛躍的に成長し、数年後には紙と電子書籍の割合が50:50になることもありうると見込んでいます。
これまでの電子書籍市場を牽引してきたのが携帯電話であることは間違いありませんが、今後はデバイスに依存しない、オールデバイスで見られるコンテンツの展開を広げていきます。ただ、1年目から結果が出る、などとは考えていません。
しかし、紙の書籍・雑誌の売り上げが減少傾向にある中、そのための準備は今やらなくてはならないと考えています。
そして重要なポイントは、我々自身がプラットフォーム運営者になるということ。これによって、お客さんが何を考えているのか、どんな行動履歴のもとに購入に至ったのかなど詳細な情報を取得できます。デジタルの世界でお客さんがどのように行動するのか、という知見をこのタイミングで得ることは将来的に必ず活きてくるはずです。

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