まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第15回
本を起点にゲーム・グッズ・映像をつなぐ架け橋を目指す
垂直統合プラットフォームとしてのBOOK☆WALKER
2010年11月13日 09時00分更新
コンテンツホルダーとしてのプラットフォーム運営
――自前で垂直統合型のプラットフォームを持つことで、他プラットフォームへのコンテンツ提供についての交渉力を持ち、またグループ内外の関係各社とのワークフローの整備にも合理性が発揮できることが理解できました。
安本 アスキー・メディアワークスの高野 潔社長は「コンテンツの価値を最大限に高めることができるのは、やはり作っている側だからだ」と言っていました。私も同感です。
「何十万冊に及ぶライブラリー」というのも魅力の1つだとは思いますが、私たちの強みはそこじゃないと感じているんです。「ここはラノベのこと、分かってるな」と言ってもらえる場所作りを目指したいなと。
――グループ外にも広く門戸を開くことも発表されました。
安本 プラットフォームのスタイルにはいくつかのパターンがありますが、BOOK☆WALKERはコンテンツホルダーの方々へ、CP(コンテンツプロバイダー)としての参加を呼びかけようと思っています。
例えば、角川グループはライトノベル分野に強みを持っています。角川スニーカー文庫、電撃文庫、富士見ファンタジア文庫、ファミ通文庫を合わせると、カテゴリー売り上げの7~8割近くを占めます。そこに他社さんのライトノベル作品もラインナップされることになれば、双方にメリットが生まれるでしょう。
なぜなら、BOOK☆WALKERが専門店の集合体になるからです。
専門店の1つとして「ライトノベルショップ(仮称)」を置き、それぞれの分野に精通した「店長」を配置して、実際のお店と同じように調達や販促を任せることで「分かっている感」を押し出します。外部からのリンクもBOOK☆WALKERのトップ画面ではなく、各ショップに直接設定する場合も出てくると思います。
ニコニコ動画との提携はソーシャルリーディング
――先のニコニコ大会議でのニコニコ動画との提携は、会場でも大きな驚きで迎えられました。それまでもニコニコ動画ではテレビアニメの追いかけ配信(1週間無料で配信し、その後は有料で視聴可能)は行なっていたわけですが、それでも提携のインパクトは大きかったようですね。
安本 2010年11月現在でも『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』が配信されていますが、3日で50万回以上再生されていますし、有料販売も好調で、角川としても良いディールになっています。
そして何よりも、角川歴彦会長が壇上に現われてドワンゴの川上量生会長、夏野 剛取締役と手を取り合ったときの歓声が強く印象に残っていまして。ニコ動ユーザーと角川のコンテンツとの親和性は本当に高いんだな、ということを改めて実感した瞬間でもありました。
BOOK☆WALKERとしては、複数の電子書籍ビューワを用意し、読者が選んだビューワで読めるようコンテンツのAPIを解放する予定です。
来年4月には、その中に「ニコニコビューワ(仮称)」というすばらしい選択肢も用意されます。
まだどのようにユーザーコメントが表示されるかは未定ですが、システム的には、ニコ動のサーバーからはコメントが、BOOK☆WALKERのサーバーからはコンテンツが配信され、ビューワでそれらを統合する形を取ります。
――Kindleがアンダーラインを引いた箇所へのコメントを共有するという形でソーシャルリーディングを実現していますが、そのニコニコ動画版といった体裁ですね。弾幕(盛り上がる箇所でコメントが画面を覆い尽くす現象)が起こったら、読みづらいけれど楽しそうです(笑)。
一方、垂直統合型のプラットフォームという観点からは映像サービスとの連携も欠かせないと思いますが、その点はいかがでしょうか?
安本 角川グループとしてはムービーゲートが配信サービスをすでに行なっていますので、まずはそこへのリンク機能を用意し、将来的には統合を図ります。いずれにしても、作品に対して関心を持って訪れてくださったお客さんに、映像も含めた360度のサービスを提供すべくがんばります。
雑誌からデジタルプラットフォームへ
――最後になりますが、安本さんはどのような経緯でコンテンツゲートに?
安本 実は、私は1992年に角川書店に入社して「週刊ザテレビジョン」に配属されて以来、編集畑をずっと歩いてきました。2000年からの4年間は編集長を務めています。その後、色んなモバイルサービスを立ち上げつつ、角川コンテンツゲートの前身である角川モバイルに移り、ここに至るという感じです。
IT業界出身でもありませんし、中身はアナログ人間なんですよ(笑)。
振り返ってみると、ザテレビジョンは番組表を武器に業界ナンバーワンを走り続けていた雑誌なのですが、だんだんとその役割を検索性の高いウェブであったり、地デジ(テレビ)の番組表に奪われていく、という時代の変化を生で体験しました。
そんな中にあって、ザテレビジョンという雑誌をどう位置づけるか――辿り着いた結論は芸能情報の拡充だったのですが――に腐心しました。今後は、iPadであったり、GoogleTVのようなオンデマンドサービスとの連携が求められるのかもしれませんね。
――雑誌も言わば、様々なコンテンツが集約される一種のプラットフォームとも言えます。ザテレビジョンでの経験は、BOOK☆WALKERでどのように活かされますか?
安本 ユーザーに対してどうアプローチしていくか、という視点は変わりません。私は『この号は何部売れる。返品はこれくらい』という予想をあまり外したことがないんです。
デジタルのプラットフォームであるBOOK☆WALKERでも、そこには勝つための法則があって、それを見つけ出せれば上手くいくはずです。突き詰めて言えば、ユーザーひとりひとりの顔が見えているか? ということに尽きます。
逆に大きな違いは、雑誌の場合、書店やコンビニなどに配本されるので、生活導線の中に存在していますが、BOOK☆WALKERはアプリケーション(画面)からの導線しかないことです。
どうやって存在に気づいてもらうか。待っていてもお客さんは来ないので、ソーシャルメディアを利用して認知を拡げていく、あるいは検索結果にBOOK☆WALKERのコンテンツをいかに表示させるかといった導線の仕掛けづくりに注力せねばならないと考えています。
著者紹介:まつもとあつし
ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環修士課程に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、ゲーム・映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。著書に「できるポケット+Gmail」など。公式サイト松本淳PM事務所[ampm]。Twitterアカウントは@a_matsumoto
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