独自のRISCプロセッサー「Am29000」
さて問題はこの次である。AMDはこうしたx86互換製品とはまったく別に、「Am29000」と呼ばれる独自のRISCプロセッサーを開発、販売していた。これは組み込み向けを意識したもので、元々はAMDが1975年に発売したAm2900ファミリーの後継にあたる。
「Bit slice」という名前で知られるこのシリーズは、演算器を4bitの倍数で適当に増やす(2つ並べれば8bit、3つ並べれば12bitの演算が可能)ことを念頭に置いたユニークな製品である。Am29000系はSunの「SPARC」などと同じく、レジスターウインドウを持つ32bit RISC CPUである。
このAm29000ファミリーの最初の製品であるAm29000は、1988年に発表されて、特にレーザープリンター向けなどでは非常にシェアが高かった。Adobeの「PostScript」を最初に実装したターゲットが、Am29000というのは象徴的である。
同シリーズはそののちも、バリエーションを増やしながら組み込みマーケットではそれなりのシェアを握っていた。しかし、1995年にAMDは突如Am29000の発売を打ち切り、設計チームをまるごとx86向けの開発に移行させる。その結果として登場したのが「AMD K5」であり、これはようするに、「Am29050」(Am29000ファミリーの性能向上版。FPUやBTACなどを内蔵)にx86命令のデコーダーを組み合わせたものである。
追加されたデコーダ段で、x86命令をAm29000のRISC命令に変換、これをAm29000のエンジンで処理するといった構造であった。残念ながら、Am29050そのものはシングルスケーラー・インオーダー実行のプロセッサーであり、一応はスーパースケーラー動作の「Pentium」と、性能面で競うのは困難だった。
おまけに1995年末には、インテルが「Pentium Pro」をリリースする。こちらはスーパースケーラーにアウトオブオーダー、さらに(当時としては極めて多い)10段以上のスーパーパイプライン構造を取っており、Am29000の延長では太刀打ちできないことは明白だった。一応は途中でプロセスを微細化し、117MHz駆動の製品が「AMD K5 PR166」(整数演算性能がPentium/166MHz相当の意味)として販売される程度までは頑張ったが、ここで打ち止めとなった。
次回はK6以降を解説する。
今回のまとめ
・1980年代、供給能力の限られていたインテルは、セカンドソース契約を半導体メーカー各社と結び、インテルCPUの互換品が市場に供給された。AMDはこれを元に、x86 CPUの互換メーカーとして躍進していくことになる。
・インテルがセカンドソースを打ち切って以降、AMDはインテルと熾烈な法廷闘争の数々を繰り広げる。1991年の「Am386DX」は、その渦中に登場した。低消費電力版や組み込み向けの派生品も多数登場する。
・続く「Am486」は、インテルに性能面でやや遅れをとった。インテルがPentiumを投入したのちも486シリーズを続けたため、製品ラインナップは多岐に渡った。
・同時期のAMDはx86以外にも、独自の32bit RISCプロセッサー「Am29000」を展開していた。プリンター用で大きなシェアを握っていたが、1995年に販売を打ち切り、開発チームは「AMD K5」に投入される。

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