AMDチップセットの歴史 その1
Athlon 64初期で終わったAMD単独のチップセット
2010年03月08日 12時00分更新
インテルチップセット編の次は、AMD/ATIチップセットを解説しよう。ご存知のとおり、AMDはATIを買収したことでチップセット資産も入手したが、それ以前にもAMDは自社でチップセットを製造・販売していた。ATIもAMD向けだけでなくインテル向けチップセットも販売しており、実際AMDによる買収直前はインテル製マザーボードにまで採用されるほど順調であった。
というわけで、このあたりは分離して説明するほうがわかりやすいだろう。ということで1回目の今回は、AMDによるチップセットのみをご紹介したい。
Socket 7以降のプラットフォームの進化が
AMDをチップセットビジネスに進めさせた
AMDは従来、CPUの製造にのみ専念していた。もちろんAMDが今のようなCPU専業メーカーになる前は、PLD(Programmable Logic Device)とかネットワークコントローラーなどの設計・製造を手がけていたし、AMDの組み込み専用ラインナップである「Elan」シリーズは当初からCPU以外にチップセットの要素を統合していた。
1997年に登場した「Elan SC300」はすでにメモリーコントローラーやLCDコントローラー、ISAバスやPCMCIAインターフェースなどをワンチップに収めていたし、後継製品である「Elan SC400」シリーズはVL-Busまで統合されている。技術的にはインテル同様にチップセットを提供する事は可能だったと思われる。
ただし、技術的に可能だからといってビジネスとして成立するかはまた別の問題であって、インテル互換CPUを発売するビジネスがメインである間は、あえて独自のチップセットを用意する必要は薄かった。そんな環境でほかの互換チップセットベンダーと競合するのは、むしろ下策というべきだっただろう。
しかしこうした方針は、インテルとの互換を捨てる過程で多少変更を余儀なくされる。まず最初はインテルが従来のSocket 7を捨て、Pentium IIでSlot 1に移行したタイミングだ(関連記事)。この時点でAMDやCyrixといった互換CPUベンダーは、引き続きSocket 7製品の生産を続けることとした。これがいわゆるSuper 7である。
Socket 7は公式には66MHzのFSBであったが、互換CPUベンダーはすでに75MHz/83.3MHzといったFSBの対応製品をリリースしていた。幸運にもインテルの「430HX」や「430TX」といったチップセットは、供給するクロックを変化させることでこうした66MHzオーバーのFSBでも問題なく動作したが、Super 7で100MHzまでFSBが引き上げられた結果、メモリーの速度とのミスマッチが大きくなってきたことでちょっと対応が難しくなった。またAGPバスといった新機能はインテルのチップセットを使い続ける限り利用できないので、この点でも新しいチップセットが必要とされた。
もちろんこうしたニーズに合わせて、台湾のVIA Technologies、Acer Labs Inc(後のALi/ULi)、SiSといったチップセットベンダーは次々に100MHz FSBに対応したチップセットを投入するが、ここで「互換チップセットベンダーではなく、CPUベンダーが動作保証をしたチップセットがほしい」というニーズが、パソコンメーカーからAMDに寄せられることになった。
初のAMDチップセット「AMD-640」
中身はVIA Apollo VP2の改良版
最初にAMDのブランドを冠してリリースされたのが、「AMD-640」チップセットである。ノースブリッジが「AMD-640」、サウスブリッジが「AMD-645」という構成でだが、実はこのチップセット、VIAから「Apollo VP2/97」の供給をうけて、それをAMDブランドとして提供したものだ。ベースとなるのはAMD-640が「VT82C595」、AMD-645が「VT82C586B」である。
もっとも、完全に同じものというわけではないようだ。例えば、VT82C595は公式には66MHzまでのFSBにしか対応していないが、AMD-640は100MHzまで対応する。VT82C595は最大512MBまでのメモリーをサポートするが、AMD-640は768MBまでサポートなど、細かいところでの機能拡張がなされている。
ただしAMD-640はあくまでもワンポイントリリーフで、これに続く製品などはまったく登場しなかった。当時AMDは「K6」シリーズCPUに代えて、「K7」(Athlon)シリーズのリリースを急いでいた。エンジニアリングリソースもK7に集中していたから、これ以上K6用チップセットを出しても意味がない、ということだろう。それよりもむしろAMDとしては、続くK7用のチップセットを用意することが急務だった。
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