ストレージの進化と理想の実現
一般に、HDDにバックアップを取ることを、「ディスクバックアップ」という。ちなみに、磁気テープにバックアップを取ることは「テープバックアップ」だ。エンタープライズ規模のシステムでは、1990年代の後半からディスクバックアップが採用されるようになったが、当初は「テープにバックアップを取るための既存のソフトウェアに対して、ストレージ装置をテープ装置に見せかけて、実際のバックアップデータをディスクに取る」という手法であった。
そのため、バックアップ専用ストレージ装置は「仮想テープ装置」と呼ばれることもあった。これにより多数のテープを管理する手間が軽減し、バックアップ/リカバリ処理の時間も短くなった。それでも、バックアップの処理中はサーバーのパフォーマンスが低下する(またはオンラインサービスを停止する)、リカバリ処理に時間がかかるといった問題は残っていた。
こうした問題を解決する技術としてストレージ製品に搭載されたのが、
- レプリケーション(Replication)
- スナップショット(Snapshot)
- イメージバックアップ(Image Backup)
といった機能だ。まず、レプリケーションは、本番データが収容された論理ディスクボリューム(こちらをソースボリュームと呼ぶ)の内容を、つねに別の論理ディスクボリューム(こちらを複製ボリュームと呼ぶ)に複製しておく技術である。
そして、スナップショットは、本番データが収容された論理ディスクボリューム(ソースボリューム)の内容が更新された時に、更新される前の内容をファイルまたはブロック単位で別の論理ボリューム(こちらを差分ボリュームと呼ぶ)にコピー・蓄積しておき、2つのボリュームに記録された内容を組み合わることによって、ソースボリュームの過去の特定時点の内容を取り出せるようにする技術だ。
3つめのイメージバックアップは、ある論理ディスクボリュームの内容を1個のファイル(イメージファイル)として保存して、障害などが発生した時に論理ディスクボリュームの内容をOS・アプリケーション・データのすべてを一括してリカバリする技術となる。
これらの機能を実装するにあたり、HDDの価格低下が大きく寄与した。いずれの技術でも、ソースボリュームのほかに、複製ボリュームや差分ボリューム、あるいはイメージデータを作成するための作業用エリアを必要とするため、同じ費用で搭載できるHDDの数は多ければ多いほど機能の向上につながるからである。
また、実際に使用されるHDDの記憶容量を節約するため、同じ内容のデータを重複して保存することを防止する「重複排除機能」も搭載されるようになった。
こうした機能を組み合わせることによって、「コストを抑えつつRTOとRPOの両方を限りなくゼロに近づける」という管理者の理想が徐々に実現されるようになってきたのだ。
次回は、ストレージ装置のバックアップ機能について詳しく説明する。
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