デジタルを通過したからこそのアナログ
―― ご自身で聴いている音楽は、やはり電子系の音楽が多いんですか?
高橋 そうですね。テクノは好きなんですけど、その中でもガツガツのテクノではなく。オーガニックで、アナログっぽいものが好きです。うねるようなフィルターのかかり具合とか。
―― 1963年生まれの僕から見ると、アナログシンセと聞いてイメージするのは、monotronのようなものではないんです。そこが新しくて面白いんですよ。おそらく高橋さんも、坂巻さんも、シンセの体験が違っていると思うんですよね。
坂巻 ああ、なるほど。僕ら世代のアナログシンセって、90年代のリバイバルした頃のアナログシンセなんですよ。キーボードのアナログシンセを見る前に、グルーブボックス系の楽器でアナログサウンドを体験していて。太い音がする、エグイ音がする、そういうところが入り口なんですよ。
高橋 僕はモデリングシンセしかさわったことがなくて。アナログシンセは高くて買えなかった。だから作ろうと思ったんです。
―― つまり僕らが「TB-303」なりを買って、しばらくして手放してしまったものを、どこかで手に入れて使っていた世代ということですよね?
高橋 そうです。
坂巻 具体的にアナログシンセ第一世代といえば、様々なモジュールがあって、それをパッチングで組み替えられて、いろんな音が作れる。MS-20※なんかが、そういうアナログシンセの一番わかりやすいところだったと思うんですが。
※ MS-20 : コルグが1978年に発売した、パッチング式で低価格のアナログシンセサイザー。これでシンセを経験したという最初のテクノ世代は多い。現在でも人気は高く、コンディションの良いものは結構な価格で流通している。当時の価格は9万8000円
―― はい、そうですね。
坂巻 僕らは「フィルター超効く!」「レゾナンスでカッコよく歪むんだけどー」みたいなことですね。ソフトウェアシンセの流行りに乗ってきているし、複雑なことはデジタルでできちゃうんですよ。だけどアナログは単純なことしかできないのに、何でこんなにカッコいい音が出るんだろう? そういう憧れでしょうね。
―― 例えば80年代のテクノと90年代以降のテクノでは、音楽的な意味も違っているわけですよ。デトロイトテクノが出てきた時に「なんでこいつら、ふっるーい機材を引っ張り出してやってるんだろう?」という感じがしたんですが。そこで必要とされたエッセンスを抜き出したら、こうなったということですよね?
高橋 まさにその通りだと思います。
坂巻 いろんな音が作れて便利、という方向ではないですね。デジタルを通過したからこその、デジタルが持っていなかった歪みのようなものが、クローズアップされてきたんだと思います。
高橋 それはやはりアナログ回路でないと作れないんです。シンセに求められてきたものを直線上に構築してきた流れから外れたものが、monotronの要素なんだと思います。
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