Intelチップセットの歴史 その3
RDRAMから逃れてi845~865で盛り返したPentium 4世代
2009年11月30日 12時00分更新
デュアルチャンネルでメモリー帯域の
ボトルネックを改善したIntel 865世代
これに続き、2003年には新しく「Intel 875/865」ファミリーにラインナップが切り替わるが、この背景にはPentium 4の急速な仕様変更があった。
当初インテルは、Pentium 4のラインナップをまず400MHz FSBでリリース、続いて533MHzに引き上げ、次は667MHzにする予定だった。ところが、AMDが「Athlon 64」シリーズの投入をアナウンスしたことで、急いで性能の底上げを図る必要があった。そのため、従来はXeonのみの機能としていた「Hyper-Threading Technology」をPentium 4でも利用できるように変更するとともに、FSBを800MHzまで一気に引き上げる事を決定する。
ただし、FSBを一気に引き上げたことで、メモリー帯域とのミスマッチが顕著になってしまった。表でまとめてみるとこうなる。
CPU(FSB) | メモリー | FSB帯域:メモリー帯域 |
---|---|---|
Pentium III(100MHz FSB) | PC100 SDRAM | 800MB/秒:800MB/秒 |
Pentium III(133MHz FSB) | PC133 SDRAM | 1.06GB/秒:1.06GB/秒 |
Pentium 4(400MHz FSB) | PC800 DRDRAM×2 | 3.2GB/秒:3.2GB/秒 |
Pentium 4(533MHz FSB) | PC1066 DRDRAM×2 | 4.3GB/秒:4.3GB/秒 |
Pentium 4(400MHz FSB) | PC133 SDRAM | 3.2GB/秒:1.06GB/秒 |
Pentium 4(400MHz FSB) | DDR266 SDRAM | 3.2GB/秒:2.1GB/秒 |
Pentium 4(533MHz FSB) | DDR333 SDRAM | 4.3GB/秒:2.6GB/秒 |
Pentium 4(800MHz FSB) | DDR333 SDRAM | 6.4GB/秒:2.6GB/秒 |
お詫びと訂正:表内の数値に誤りがございました。ここに訂正するとともに、お詫びいたします。(2009年12月15日)
Pentium IIIの時代は、FSBの帯域とメモリーの帯域がマッチしていたので、ここがボトルネックになることはなかった。またPentium 4でも、Direct RDRAMを使う限りにはやはりFSB帯域とマッチしていた。ところがSDRAMだと、FSBの帯域の半分~3分の1程度のメモリー帯域しか供給できない。つまり、プログラム実行中にキャッシュミス(キャッシュメモリー内に必要なデータがない状態)が発生した瞬間に、激しく性能が落ちることになる。
この対策として、NorthwoodコアのPentium 4は2次キャッシュメモリーを倍増するといった手段が採られたが、チップセットの側でも変更が行なわれた。下の左図がIntel 845ファミリー、右がIntel 865ファミリーだが、従来はMCH/GMCHからメモリーバスが1チャンネルだけしか出ていなかったのを、2チャンネル(デュアルチャンネル)に増やした。これが、この世代における最大の違いとなる。
さらに、当時はまだJEDECで正式に仕様が決まっていなかった「DDR400」も強引に採用にこぎつける。この結果、先の表で示すと以下のようになり、Intel 845ファミリーに比べて大幅に性能が改善することになった。
CPU(FSB) | メモリー | FSB帯域:メモリー帯域 |
---|---|---|
Pentium 4(800MHz FSB) | DDR333 SDRAM×2 | 6.4GB/秒:5.3GB/秒 |
Pentium 4(800MHz FSB) | DDR400 SDRAM×2 | 6.4GB/秒:6.4GB/秒 |
ちなみにIntel 865ファミリーのそのほかの特徴としては、ICHが「ICH5」となり、USB 2.0ポートが8本となったほか、Ultra ATA/100に加えてSATA/150のポートを2つ内蔵した点がある。ICH5には標準の製品のほかに、「ICH5R」と呼ばれるタイプもあり、こちらは2つのSATAポートに接続したHDDで、RAID 0を構成することも可能になった。
またMCH/GMCHには新たに、「CSA」(Communication Streaming Architecture)と呼ばれるポートが追加された。このポートは、インテルのGigabit Ethernetコントローラーを接続する専用のものである。Gigabit Ethernetの場合、全二重動作では上り/下りともに125MB/秒(1000Mbps)の転送速度を持つから、これをICH側に入れてしまうと、Hub Linkの帯域(266MB/秒)を使い切ってしまう。これを避けるため、専用ポートを用意したというものだ。
ちなみに、ICH5には引き続き10/100BASE-TのMAC(Media Access Controller)が搭載されているので、両方を使うとデュアルEthernetの構成が可能になる。実際そうした製品も少数登場したが、通常はCSAポートにGigabit Ethernetを付けるか、もしくはCSAポートを使わずにICH5の先に10/100BASE-T PHYを付ける形でEthernetは1個だけ、というのが大半だった。
さて製品のラインナップであるが、この世代からウルトラハイエンド(エンスージャスト向け)チップセットが投入されるようになったのも特徴のひとつだ。まず基本となるのは「Intel 865G」で、これはAGP 8x(Intel 845のAGP 4xから強化された点)+内蔵グラフィックス機能という構成の製品だ。これから内蔵グラフィックを無効にしたものが「Intel 865PE」、Intel 865PEから800MHz FSBやDDR400のサポートを省いたのが「Intel 865E」となる。
さらにこの上位に、「Intel 875」という製品が投入された。投入時期で言えば、865ファミリーが2003年5月なのに対して、875のみちょっと前倒しで投入されており、その点で言えばIntel 875から派生したと言えなくもない。そのIntel 875であるが、Intel 865PEとの相違点はワークステーション向けに2プロセッサー構成をサポートしたことと、「Intel PAT」(Performance Acceleration Technology)を搭載している点が挙げられる。
このPATとは、800MHz FSBとDDR 400×2の構成の時に限って、MCH内部の動作を最適化する仕組みで、これによりメモリーアクセス時のレイテンシが削減されるという謳い文句だった。だが筆者が試した限り、明確といえるほどの性能差はなかったと記憶している。
ほかに、バリュー向けにIntel 865GからAGPのサポートを外した「Intel 865GV」がやはり2003年5月にリリースされたほか、2003年8月にはIntel 865PEからメモリーを1チャンネル分省いた「Intel 848P」がリリースされている。メモリーが1チャンネルなのでIntel 845ファミリーの延長として命名したのだろうが、内部的にはIntel 865ファミリーである。
これでインテルはSDRAMからDirect RDRAMを経て、DDR SDRAMへの移行をはたした。この後の世代では、DDR2メモリーへの移行を進めてゆくことになる。
今回のまとめ
・初のPentium 4用チップセットとなったのは「Intel 850」だが、インテルとRAMBUSの契約によりDirect RDRAMを使わざるを得なかったことなど、トータルコストの高さに苦しみ、改良品も含めて苦戦した。
・一方で、インテルとRAMBUS以外の主要ベンダーは、JEDECの標準仕様である「DDR SDRAM」を次世代メインメモリーとして推進。結局インテルもDirect RDRAMを諦めることに。
・SDRAM対応の「Intel 845」と、改良型でDDR SDRAM+USB 2.0に対応した「Intel 845E」が転機となった。グラフィックス機能を内蔵した「Intel 845G」など、バリエーションも豊富に登場する。
・続く「Intel 865」ファミリーでは、デュアルチャンネルメモリー接続に対応。DDR SDRAM化によってFSB周波数とメモリー周波数の差がパフォーマンス上のボトルネックとなっていたのを解消した。
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