データの価値や要求I/O性能の時間変化
これまで解説したストレージ階層化は、比較的大きい単位(業務システムやサービス)で検討し、かつある時点(もしくは時間平均)での「適材適所」の実施だ。しかし、各業務システムが使用しているデータに着目すると、求められるサービスレベルが時間の経過に伴って変化しているケースが多い。以下に2つの実例をあげ、サービスレベルの時間変化について考えてみる。
例1. 時間変化とともにデータのアクセス頻度が下がる
ユーザーのメールボックスは典型的な例で、過去のメールを参照する頻度は時間とともに確実に低下していく。一方で、直近のメール参照や新着メールのメールボックス登録など、メールボックスとしてのI/O性能はある程度維持する必要がある。したがって、古いメールと新しいメールを同一の領域(ストレージ筐体や論理ボリューム)に配置するのは、決して効率的とはいえない。
アクセス頻度が低いデータのみ別の領域に移す(アーカイブする)ことができれば、よりコスト効果が高いストレージ構成を追求できる。(連載第7回で解説したNASのファイル・アーカイビングも、同様の発想である。)
例2. 特定の処理(月次バッチ処理など)のみ高いI/O処理性能を求められる
普段はほとんど更新や参照が発生しない顧客マスタデータベースでも、月1回の請求処理(月次バッチ処理)を行なう際には参照頻度が上がる。このため、月次バッチ処理の要求I/O性能に応じたストレージ構成を採用せざるを得ない。その一方で、普段は参照頻度が高い商品販売サイトのトップページは、月次バッチ処理時はメインテナンスのため停止をしている。同時に高いI/O性能を要求されない2つの領域を必要なタイミングで入れ替えることにより、高いI/O性能を提供可能な領域を減らすことができれば、コスト削減が期待できる(図4)。
以上の2つの例からわかる通り、サービスレベルの時間変化に対応するには、任意のタイミングでデータを移動することが求められる。併せて、データの移動に際しては業務やアプリケーションの停止を伴わない、透過的なデータの移動が必要とされる。
ストレージのデータ移動技術
先の例から明らかになったような透過的なデータ移動を実現する仕組みは、おもに図5のような方式/製品に分類できる。
アプリケーションやミドルウェア(ファイルシステム、データベース)レイヤでデータ移動を実現する場合は、ストレージのベンダーやモデルは問わないが、特定のアプリケーションやミドルウェアのみの対応となるため汎用性に欠ける。一方、ストレージ仮想化エンジンやストレージ自身が論理ボリューム単位でデータを移動する方式は、あらゆる業務システムに適用可能だ。中でも、ストレージ仮想化技術は、対象とするストレージ機種を問わない理想的なデータ移動手段だが、いくつか技術的な課題もあり多くの企業が採用にいたっていない(ストレージ仮想化については、次回に詳しく解説する)。今回は、より多くの企業に適用可能なストレージ筐体内での透過的なデータ移動技術について紹介する。
多くのストレージベンダーが、ストレージ筐体内の透過的な論理ボリューム移動機能を実装している。EMCでは、Symmetrix V-Max、CLARiX CX4に「仮想LUN」という名称でデータ移動機能を提供している。図6がその動作イメージで、ドライブタイプやRAID保護レベルによらず、論理ボリューム単位で自由にデータ配置を変更できる。この移動の際には、サーバのI/O処理を停止する必要がなく、透過的なデータ移動を実現している。
また、この透過的な移動の際にも、連載第9回と10回で紹介したような、ストレージレプリケーション機能を継続できることが大きなポイントとなる(図7)。ミッションクリティカルな業務で、つねに災害対策(リモートレプリケーション)構成が必要とされる論理ボリュームであっても、このように任意のタイミングで自由に移動できることが保証されることが、運用の柔軟性やコスト削減につながる。
データの自動移動によるコスト最適化
これまで解説してきた階層化の考え方や技術は、あくまでも人間が介在し判断するものであった。したがって、ダイナミックにサービスレベルが変化する環境に適応しようとすると、IT管理者の負担が増え、運用コスト上昇し全体の削減につながらない可能性もある。
EMCでは、データの移動をストレージ自身がポリシーに基づいて判断・実施する「FAST(Fully Automated Storage Tiering)」という機能を数カ月以内でリリースする予定だ。これは、図8のように論理ボリュームごとのI/O負荷状況が時間的に変化する環境の中で、ストレージ自身がI/Oの統計情報を収集し、予め設定したポリシーに基づいて自動的にデータを移動する機能だ。これにより、IT管理者がつねにI/O負荷状況を監視したり、I/O統計情報に基づいて精密なボリューム配置設計を行なうことなく、階層化されたストレージを最適な状態で利用可能となる。運用コスト削減という観点でも非常に有用な機能となるため、もっとも注目を集めているストレージ技術の1つとなっている。
今回は、多くの企業が取り組んでいるコスト削減をベースとして、ストレージの階層化の考え方や技術について解説した。電子データの増加とサービスレベルの遵守といった課題を抱えながら、ITインフラのコストを削減するためには、今回紹介したような新しいストレージ技術を積極的に検討・採用することも重要なポイントと考えられる。次回は、ストレージの仮想化技術について解説する。
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