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インターネットなしの環境下でも、デバイスどうしのP2P/メッシュ通信でデータベースの同期を維持

JALもANAも機内業務アプリで採用、Dittoのインターネット非依存データ同期技術

2024年05月13日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 インターネット非接続のデバイス間でデータベース(データストア)の自動同期を可能にする米国のソフトウェア企業、Ditto Live(以下、Ditto)が2024年5月8日、都内で記者説明会を開催した。

 国内ではJAL(日本航空)やANA(全日本空輸)が、インターネット接続ができない機内で使用する客室乗務員向けモバイルアプリなどで、Dittoの技術を採用している。説明会では、Ditto 共同設立者兼CEOのアダム・フィッシュ氏が、独自技術の概要やユースケースを紹介したほか、JAL、ANAの両社も出席してそれぞれコメントを寄せた。

Ditto 共同創設者 兼 CEOのアダム・フィッシュ(Adam Fish)氏(左から2人目)、共同創設者 兼 CPOのマックス・アレクサンダー(Max Alexander)氏(同 3人目)

説明会にはDittoの技術を採用したANA、JALも出席した

インターネット非接続でもデータベースの閲覧や編集が可能な仕組み

 Dittoは、2018年に米国で創業したソフトウェアベンチャーだ。これまでベンチャーキャピタルから5400万ドル(およそ84億円)の資金調達を行っており、現在はグローバルで110名超の従業員がいる。

 Dittoが持つ特徴的な技術が「インターネット非依存のデータ同期ソフトウェア」だ。インターネット接続のできない環境下であっても、同じアプリを持つデバイス間でP2P(ピアツーピア)/メッシュ通信を行い、データベースを自動同期するというもので、アプリ開発のためのSDKを提供している。

 フィッシュ氏は「初期のスマートフォンはデバイス上でパワフルなソフトウェアを動かすことができなかったため、クラウドに処理を依存することになった。そのため現在でも、クラウドとの通信ができない環境ではサービスが利用できないという問題が生じる」と、現状の課題を指摘する。こうした課題を解消するのがDittoの技術だ。

クラウドへの“中央集中型”で開発されたスマートフォンサービスは、インターネットが利用できない環境や、クラウドのダウン時には利用できない問題がある

 Dittoのデータベース同期ネットワークに組み込まれた各デバイス(Dittoでは「ピア」と呼ぶ)は、Bluetooth、Wi-Fi(アクセスポイント経由の通信、ピアどうしの直接通信の両方に対応)、有線LANといったピアが備える通信手段を使って、近隣にあるデバイスと差分データをやり取りしてデータベースの同期を行う。これをメッシュ型で“バケツリレー式”に行うことで、すべてのデバイスが同じデータベースを持つ状態を維持する。これが基本的な仕組みである。

 データベースは各ピアに保持されており、データの閲覧や編集はインターネットや他のピアと接続されていないオフライン状態であってもできる。オフライン時のデータ編集で生じた差分は、オンラインになった段階で同期が行われる。ここでは「CRDT(Conflict-free Replicated Data Type)」と呼ばれるデータ結合の仕組みを採用しており、複数のピアがオフライン時にデータベースを操作したとしても、コンフリクト(変更データの衝突によるデータベースの不整合)が起こらないようにデータ処理を行うという。

オフライン状態でもデータの閲覧や編集が可能。オンラインに復帰した時点で同期処理が行われる

 Dittoのネットワークには「スモールピア」「ビッグピア」という概念もある。スマートフォンやタブレット、IoTデバイスなどがスモールピア、サーバーやクラウドインスタンスなどがビッグピアと位置付けられるが、技術的にはどちらも同じピアであり、これらの間でもデータベース同期が行われる。両者の違いは“役割”だ。

 役割の違いとは何か。レストランのオーダーシステムを例にとると、店舗スタッフが使うタブレットやスマートフォン(スモールピア)はリアルタイムの注文データだけを保持できればよく、過去のデータ(会計済みの注文など)は必要としない。一方でビッグピアのほうは、リアルタイムの注文データは必要としないが、集計や分析のために過去の注文データを蓄積する必要がある。そこで、スモールピアとビッグピアがうまく役割分担をしながら、現場(スモールピア間)でのリアルタイムなデータ同期と、クラウド(ビッグピア)でのデータ蓄積を両立させる。

 「もちろんこれはケースバイケースだ。現場スタッフ間のチャットアプリなど、ユースケースによってはデータをクラウドに蓄積する必要のないものもあり、そうした場合はスモールピアだけで構成することもできる。またIoTデバイスのように、データを一方的に送信するピアの場合は、SDKの通信機能だけを使うことも可能だ」(Ditto シニアプロダクトエンジニアの近藤峻輔氏)

スモールピア/ビッグピアによるアーキテクチャのイメージ。スモールピア間でインターネット非依存で常にデータ同期を行う一方、ビッグピアはデータ蓄積などの処理を行う。こうしたアーキテクチャにすることで、スモールピアが不要なデータ(過去のデータなど)を保持する必要もなくなる

 なお、Dittoのネットワークに組み込めるピアの台数に制限はない(ライセンス料金はピア台数ベース)。各ピアにはクラウドからデバイス証明書が付与され、それに基づいて認証と認可(どのデータベースにアクセスできるか、読み出しだけか書き込みもできるかといった権限付与)が管理される。また、ピアどうしの接続帯域(BluetoothかWi-Fiかの違いなど)によって、やり取りするデータ容量を制御する仕組みもあるという。

ANA、JALをはじめ世界の航空会社で採用、他業界の現場への普及も図る

 創業後、Dittoがまず力を入れたのが航空業界での採用促進だった。フィッシュ氏は「フライト中の機内はもちろん、飛行場においても必ずしもネットワークが100%提供される環境ではない。その中で従業員どうしがデータを共有し、共同作業を行えることが重要だったため」だと説明する。

 日本国内では昨年(2023年)3月にJALと、また今年(2024年)4月にANAとの契約締結を発表している。それぞれ、客室乗務員がフライト中の機内で使う業務アプリにDittoの技術を採用して、乗務員どうしのコミュニケーション改善と顧客サービスの向上、業務の効率化を図る狙いだ。

日本航空(JAL)デジタルテクノロジー本部 デジタルCX企画部 マイル・ライフグループの阿部 優氏(右)。JALでは2019年から、客室乗務員のデバイス間連携プロジェクトを進めてきた。現在は全客室乗務員が利用するiPad端末にDittoの技術が採用されている

全日本空輸(ANA)デジタル変革室 イノベーション推進部 業務イノベーションチームの笠川 茜氏(左)、オペレーションサポートセンター オペレーション企画部 企画推進チーム スタッフアドバイザーの山本麻衣氏(右)。ANAでは2020年から中距離国際線でDittoの技術実証を行い、客室乗務員どうしでの顧客情報の連携や業務プロセス管理を実現しているという

 海外では、アラスカ航空、デルタ航空、ルフトハンザ航空といった航空会社がDittoの技術を採用しており、「ほかにも多くの航空会社がアプリの開発や検討を進めている」とフィッシュ氏は紹介した。利用目的も、客室乗務員どうしの情報共有をはじめ、パイロットどうし、パイロットと客室乗務員の間、空港の地上作業員どうしなど、さまざまなスタッフ間の情報共有に適用されている。「さらには乗客向けのアプリに搭載し、乗客が直接注文を入力して、客室乗務員に伝えるかたちを検討している会社もある」(フィッシュ氏)。

Dittoの技術は米空軍も採用。たとえば沖縄県の嘉手納基地において、航空機整備領域で活用されている。さらに、飛行中の軍用機どうしをメッシュでつないだり、同盟国との共同作戦における通信手段として利用したりといった構想もあると紹介した

 また、Dittoの最大の顧客は、北米で展開するチキンファーストフードチェーンのチックフィレイ(Chick-fil-A)だという。店舗内にある顧客注文端末、レジ端末、オーダー管理端末などをDittoのネットワークでつなぐことで、店舗ネットワークに障害が発生した場合でも業務が問題なく継続できるようにしていると説明した。

 フィッシュ氏によると、現在は航空、リテール、建設、政府(軍)といった業種での採用が多いという。今後はさらに医療、保険(災害現場での被害調査など)、金融(キャッシュレス決済端末など)、研究機関、IoT(生産設備など)といった分野での活用を促していきたいと語った。

 「世界には27億人の“デスクレスワーカー”(非オフィス環境で働く人)がいる。Dittoが提供する技術は、航空業界だけでなく、そうした環境で働くすべての人がターゲットになりうる」(フィッシュ氏)

ユースケースの一例。店舗などの拠点にエッジサーバーを設置すると、コストがかかるうえにそこが単一障害点になるリスクが生じる(左)。Dittoの技術を使えば“エッジサーバーレス”の環境を構成できる(右)。チックフィレイの導入事例は、まさにこうした発想に基づくものだと説明した

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