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無線LANのすべて 第8回

高速性と接続性に優れた新規格を探る

高速無線LAN「IEEE802.11n」を支える新技術とは?

2009年10月22日 07時00分更新

文● 的場晃久

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IEEE802.11nは、無線LANに関してここ2、3年でもっとも注目されるトピックだろう。2007年のドラフト2.0承認から2年、2009年9月に標準化作業が完了した新しい無線LAN規格である。これまでの無線LAN規格となにが違うのか、なぜ高速なのか。11nに用いられている技術を押さえておこう。

11nの意義

 無線LANは1997年にIEEEにより802.11が策定されて以来、1999年に11bと11aが、そして2003年に11gが策定された。それにともない、最大データ伝送速度も2Mbpsから54Mbpsへと高速化している。さらに補完的な規格として、セキュリティ機能を拡張した11iやQoSを強化した11eなども策定された。

 IEEE802.11から11gまでの拡張は、通信の仕組みそのものに関しては物理層のみに留まっていた。つまり、11iや11eを除けば、MAC(Media Access Control)層から上はIEEE802.11策定以来変更がなく、今日まで使われてきたのだ。

 なお、MAC層とはOSI参照モデルでいうデータリンク層の一部分を指す。MAC層の役割は、物理層との通信を行なうことである。そして、物理層とデータリンク層で用いられているLAN規格がEthernetだ。

 Ethernetは1983年に10Mbpsが策定され、その後100Mbpsから1Gbpsになっている。これに比べて無線LANでは11a/gで54Mbpsである。しかも実効速度はその約半分程度の20~30Mbps程度に留まり、Ethernetの速度とは大きな差がある。その理由は、CSMA/CAの仕組みにあることを前パートで説明した。

 この状況を打開し、具体的に実行速度の目標を100Mbps以上と想定したものが「IEEE802.11n」である。規格上の最大速度は600Mbpsにも達するこれを実現するためには、MAC層の拡張が不可欠だったのである。なぜ11nでMAC層の拡張が必要なのかを考えることで、無線LANへの理解がより一層深まるだろう。

11nの高速化技術

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 11nを実現する技術として、MIMOやチャネルボンディングといったキーワードに注目が集まる。まずは、こういった物理層で用いられる技術を解説していこう。

MIMOの採用

 MIMO(Multiple Input Multiple Output)は、送信機(無線モデム)とアンテナの組み合わせを複数用意して、データを並列化して同時に送信する技術である(図1)。送信機と受信機が二組あれば2つのデータ(データストリーム)を同時に送信できるため、データ通信速度が倍になるという仕組みである。これを2多重と呼ぶこともある。11nの規格では最大4組の送受信機まで、つまり4多重まで可能だ。したがって、最大でこれまでの4倍のデータ伝送速度になる。

図1 MIMOの仕組み。複数のアンテナによる多重送受信

 MIMOのもう1つの利点は、マルチパス(多重波伝送路)を利用できることだ。これまでの無線LANでは、反射波は受信時の信号を劣化させ、到達距離やデータ転送速度の低下につながる要因だった。一方MIMOでは、複数のアンテナ(受信機)で複数のデータストリームを同時に受信するため、反射により各データストリームに遅延(時間差)が生じたほうが有利になる。このため、見通しの利かない場所や、反射波によって通信が不安定だった場所でも使えるようになる。また、従来の11a/gに比べて到達距離が約2倍になるともいわれている。

 いいことづくめのように見えるMIMOだが、デメリットもある。複数の送受信機を同時に稼働させるため、消費電力が大きいのだ。アクセスポイントの場合は、2多重でもEthernetケーブルによる電力供給(PoE)の給電能力を超えてしまい、現行のPoEが使えない例もある。したがって、3多重、4多重の製品になれば消費電力は増加する。バッテリで駆動する無線クライアントではより深刻で、すべての製品にMIMOが実装されることはないと思われる。

(次ページ、「速度を2倍にするチャネルボンディング」に続く)


 

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