読者の「バックアップ」に対する印象はどのようなものだろうか?何かあった際の「備え」であり、「保険」のような意味合いでとらえている方が多いであろう。パソコンの中の個人データであれば、データを失っても影響範囲はある程度限られるが、企業が扱うデータの消失は、売上や利益、信用など企業活動の存続にかかわる部分に影響が及ぶ場合がある。これより3回にわたる「バックアップ・リカバリ・レプリケーション」では、企業におけるデータ保護・保全という観点で、バックアップに関連する技術や製品について解説する。
何のためにバックアップするのか?
バックアップ技術の紹介の前に、まずバックアップそのものの目的について整理しよう。バックアップはデータ消失に対する「備え」ではあるが、どういった事象や障害に対する「備え」なのだろうか?一般に、以下のような分類で考えられる。
- 物理的な事象・障害に対する備え
- ストレージハードウェアの故障、障害
- ストレージの盗難や紛失
- 災害やテロ行為などによる物理的な破壊 など
- 論理的な事象・障害に対する備え
- ユーザーのオペレーションミス
- ソフトウェアのバグやコンピュータウイルスなどによるデータ化けや消失
- ハッキング行為などによる意図的なデータ破壊 など
たとえば、これまでの紹介してきたRAIDによるデータ保護の仕組みも、1.の物理的な障害(ドライブの故障)に対する備えではある。しかし、ユーザーやアプリケーションが誤ったデータを書いてしまうと、その瞬間データは更新されてしまうため、論理的な障害に対する「備え」にはなり得ない。また、前回のNASの解説で触れたスナップショット機能は、データ更新差分のみ保持して実現しているため、本番領域の物理的な障害に対する「備え」として機能しない(スナップショットについては、次回に再度説明する予定だ)。
一般にバックアップとは、規模や事象・障害の対応範囲こそ差はあれ、上記「物理」と「論理」の両方に対応できる仕組みを指している。
一方、「備え」であるバックアップを活用する場面は「データのリカバリ」である。いざという時にデータが戻せないバックアップの仕組みは、そもそも存在価値がない。しかし、リカバリを軽視したバックアップシステムを構築・運用しているケースも、いまだに散見する。以降の解説では、「物理」「論理」障害に備えられるか?リカバリできるか?といった点を意識しながら、各種バックアップ技術を紹介する。
バックアップシステムの構成要素
まず、バックアップシステムの基本的な構成要素とその選定基準について考える。図1は一般的なバックアップシステムの構成図で、バックアップソフトウェアをインストールしたサーバにテープドライブが接続され、バックアップ対象のサーバやクライアント上のエージェントソフトウェアを経由してLAN経由でデータをバックアップしている。
バックアップソフトウェアは、データやメディアの管理、スケジューリングなどのバックアップ運用に必要な基本機能を実装しているが、バックアップメディアやクライアントOS、アプリケーション対応状況、バックアップ対象サーバ数や容量などの規模に応じてさまざまな製品が用意されている。バックアップソフトウェア選択の際は、このような機能や拡張性がおもなポイントとなるが、同時にソフトウェア自体の永続性(継続性)も重視すべきである。
データをメディア保存するフォーマットは、バックアップソフトウェア間で異なっている。したがって、バックアップソフトウェアの変更は、すでに取得済みのバックアップデータの移行を伴い、非常に手間のかかる作業となる。重要業務や規模が大きいシステムに対するバックアップの検討の際には、提供するベンダーの規模や販売実績についても調査が必要だ。
次に、バックアップデータを保存するメディアについて考えてみよう。もっとも利用されているバックアップメディアは、現在でもテープである。容量あたりの単価が安いことと、可搬性に優れ運送による災害対策に利用可能なため、多くの企業ユーザーが利用し続けている。
一方で、ディスクやストレージをバックアップメディアとして利用するケースが、特に大規模なシステムで増えている。リカバリという点を重視すると、ランダムアクセスが低速なテープメディアはリカバリ速度に問題があり、かつ不十分な保管状態により劣化(エラー)の可能性があるため、信頼性の高いバックアップとしても利用しにくい。それに対して、アクセスが高速で定期的にデータのチェックが行なえるディスクやストレージが、迅速で確実なリカバリを求められる業務システムで評価され採用が進んでいる(図2)。
(次ページ、「バックアップ容量削減による運用改善」に続く)
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