「記者クラブ開放」をめぐる騒動
こうした懸念を裏づけたのが、鳩山首相の記者会見をめぐる騒動だった。野党時代の鳩山氏は、フリージャーナリストの上杉 隆氏に「私が政権を取って官邸に入った場合、上杉さんにもオープンでございますので、どうぞお入りいただきたい」と明確に記者会見を内閣記者会(官邸クラブ)以外のジャーナリストが記者会見に入ることを認めていた。ところが9月16日の首相会見に上杉氏らが入ろうとしたところ、守衛に止められた。
ビデオジャーナリストの神保哲生氏によれば、鳩山氏の知らないところで平野博文官房長官が「雑誌5社と海外プレスだけ」という指示を官邸報道室に出し、それを官僚がそのままメディア側に伝えたという経緯のようだ。民主党側の説明がないのではっきりしないが、これが事実だとすれば、首相の約束を官房長官が破ったことになる。
しかし岡田外相は、外相会見をすべてのメディアに開放する方針を表明した。これは日本の官庁で初めてのことであり、大きなニュースだと思われるが、なぜか第一報はスポーツニッポンで、毎日・産経・共同・時事が追いかけたが、朝日・読売・日経と全テレビ局は、このニュースをまったく伝えなかった。彼らが大騒ぎしたのは、各官庁の事務次官会見を廃止するという決定だけだった。
日本版FCCを創設する理由として、民主党は政治の放送への介入を防ぐことをあげているが、むしろ日本で問題なのは、放送業界の行政への介入が強すぎることだ。先進国で唯一、日本だけが周波数オークションを導入していないのも、放送局が「自分たちの電波に課金される」と誤解して総務省に圧力をかけているためだ。原口氏は就任会見で「地上デジタル放送の完全デジタル化を前にした現在の放送事業者の体力を見ると、オークションを前のめりでやる環境にあるのかなという思いがある」と意味不明の話をしているが、これもテレビ局に吹き込まれたのだろう。
ただ政権交代は、戦後の日本でほとんど初めての出来事であり、こういう間違いが起こるのも、ある程度はやむをえない。これからもいろいろな試行錯誤が続くだろうが、民主党には「政官財の癒着を排す」という初心だけは忘れてほしくないものだ。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「なぜ世界は不況に陥ったのか 」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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