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西田 宗千佳のBeyond the Mobile 第29回

WiMAX内蔵「SOTEC C204」で知るWiMAXの魅力と実力

2009年08月05日 16時00分更新

文● 西田 宗千佳

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まるで無線LAN感覚の快適さ
内蔵だと速度も受信感度も有利!?

 冒頭で述べたように、C204A5の最大の特徴は、モバイルWiMAXによる無線LAN通信機能を内蔵している、という点である。内蔵されているのは、インテルの無線LAN・WiMAXコンボカード「Intel WiMAX/WiFi Link 5150」のハーフミニPCIカードタイプ。アンテナは無線LANと共用している。

Intel WiMAX/WiFi Link 5150は本体裏面右上隅に内蔵

Intel WiMAX/WiFi Link 5150は、本体裏面右上隅に内蔵されている。ミニハーフタイプのカードで、1×2のMIMO対応。アンテナは無線LANとWiMAXで共用だ

 接続はいたって簡単だ。モバイルWiMAXのサービス範囲内にパソコンがあれば、あとは自動的に接続される。接続に要する時間は数秒程度で、無線LANの再接続と大差ない。パソコンをサスペンドから復帰すれば、すぐにモバイルWiMAXで接続する、といった印象だ。

モバイルWiMAXへの接続は、組みこまれて出荷されているインテル製のユーティリティーを利用する。一度接続しておけば、次にパソコンを開いた時も、WiMAXの電波をつかむと自動的に再接続される

 モバイルWiMAXは3G携帯電話網やPHSによる通信サービスと違い、「IDとパスワードを使ったダイヤルアップ接続」ではない。モバイルWiMAXカードのMACアドレスによって、接続の可否を認証する仕組みになっている。契約時にはカードのMACアドレスを読み取って、サービス側に“登録”する、という形になっている。

 そのため、UQコミュニケーションズの「UQ WiMAX」の場合、ひとつの利用契約に複数のモバイルWiMAX機器のMACアドレスを登録して併用する、ということもできる。今回も手持ちのUSBタイプのアダプター(NECアクセステクニカ製の「UD01NA」)と、C204A5内蔵のWiMAXアダプター、両方を1契約に登録して使用した。

筆者のUQ WiMAXでの契約状況

筆者のUQ WiMAXでの契約状況。1契約だが、USBタイプのアダプター(USB Modem)とC204A5(TEST ONKYO)が両方登録され、使える状態になっている。もちろん、追加登録や登録削除も簡単にできる

 USBタイプでも、モバイルWiMAXの接続は簡単で速い。接続用アプリケーションを起動しておき、USBの通信アダプターを差し込めば、自動的に通信が開始される。だが、内蔵タイプはさらに快適である。ほんの数秒だが接続までの時間が速い上に、「アダプターを差し込む」という動作がないためだ。

 意外だったのは、通信の安定度も内蔵タイプの方が上であったことだ。下の表を見ると分かるように、同じ場所で利用していても、通信速度や電波のつかみ具合ははっきりと異なる。電波の入りにくい自宅の奥でもテストしてみたが、USBアダプターでは「ぎりぎりで圏外」な場所でも、内蔵タイプでは「なんとか圏内」を維持できた場合があった。

UQ WiMAXを内蔵とUSBアダプターでそれぞれ速度テスト

UQ WiMAXを内蔵とUSBアダプターでそれぞれ速度テストした。速度チェックは「gooスピードテスト」での下り回線速度。電波強度は最大で「アンテナ5本」の表示だが、今回のテストでは4本までしか確認できなかった。比較のため、イーモバイルの端末(下り最高7.2Mbpsで通信できるD12LC)でもテストしている

 なぜ通信品質にこれほどの差が生まれたのか? それはおそらく、アンテナの配置が理由だろう。すでに述べたように、WiMAXの内蔵カードでは、アンテナを無線LANと共用する形をとっている。現在日本でのサービスに利用されている電波帯が、無線LANの2.4GHzに近い、2.5GHz帯であるためだ。

 パソコンでは無線LANの通信品質を安定させるため、それなりの大きさとクオリティーを備えたアンテナを、通信効率の良い場所に配置するよう設計している。その設計は、近い周波数帯を利用するモバイルWiMAXでも有効となる。

 それに対しUSBアダプターは、小型にせねばならないという理由から、アンテナ配置の最適化が難しい。そのため、受信感度については若干不利な状況にあるのだろう。

 実は、WiMAX内蔵の「ThinkPad T400s」を発売しているレノボ・ジャパンのエンジニアも、会見にて同様の趣旨の発言をしている。その差が、今回は他メーカーの機種ではあるが、実験で裏付けられた格好になる。おそらく、「無線LANの受信効率のいいパソコン」は、そのまま「モバイルWiMAXの受信効率のいいパソコン」、ということになるのだろう。

 モバイルWiMAXはまだまだエリアが狭い。また、携帯電話が利用する電波帯に比べ直進性が高いため、室内への浸透度がよくないと言われる。室内にアクセスポイントがあることの多い無線LANや、基地局の整備が進み、室内への浸透度も高い3G携帯電話網の場合、強電界下で利用することが多い。その場合には、内蔵かUSBアダプターなのか、といった差がはっきり現れることは少ないだろう。だがモバイルWiMAXでは、「内蔵とUSBの差」「機器によるアンテナ配置設計の差」はかなり大きいと感じている。

 なお、Intel WiMAX/WiFi Link 5150は、モバイルWiMAX通信速度が上りで最大3Mbps、下りで最大13Mbpsである。USBアダプターと違い、UQ WiMAXの最大速度である“上り最大10Mbps/下り最大40Mbps”、という速度は生かせない。おそらく、本当に電波が強くてインフラ的に恵まれた場所では、USBアダプターの方が速度が出ると思われるが、そういった場所がまだ多くはないことを考えると、現時点ではさほど気にする必要はないだろう。


バッテリー持続時間は無線LANの圧勝
内蔵とUSBでは少しだけ内蔵が有利

 またIntel WiMAX/WiFi Link 5150には、速度に加えてもうひとつ制限がある。それは、無線LANとモバイルWiMAXを同時に利用できない、という点だ。似た電波帯を同じアンテナで利用するがゆえの制約だろう。モバイルWiMAXを利用する時には無線LANを切らねばならず、逆に無線LANを使う時には、モバイルWiMAXを切る必要がある。電波の強さを見て、強い方を自動的に選ぶ、という形が理想ではあるが、さすがにそういう使い方はできない。

無線LANで接続しようとすると、このような表示が

無線LANで接続しようとすると、このような表示が。……無線LAN(WiFi)とWiMAXの同時接続には対応しておらず、それぞれを排他利用する形式になっているためだ

 また、これはおそらくC204A5独自の問題点だろうが、無線LANでは点灯する「通信中を示すLED」が、モバイルWiMAXでは点灯しない。物理的に通信を切るスイッチがないため、飛行機に搭乗する際などは、気を付けておく必要があるだろう。

本体右上には、無線LANの動作状況を示すインジケーターがある

本体右上には、無線LANの動作状況を示すインジケーターがある。WiMAXの動作中は点灯しないので、WiMAXの電波が発信されているかどうかは、ユーティリティーを見ないと分からない

 ちなみに今回は、バッテリー駆動時間について、内蔵無線LAN、内蔵WiMAX、USB接続WiMAX、USB接続イーモバイル(D12LC)の4種類を比べてみた。液晶ディスプレーはもっとも暗くし、省電力機能もすべて働かせた状態でテストしている。

無線通信別のバッテリー駆動時間測定結果

無線通信別のバッテリー駆動時間測定結果。「BBench」にて計測

 すでに述べたように、C204A5のバッテリー駆動時間は、カタログ上は4時間。テストでの無線LAN利用時で約3時間というのは、十分満足すべき値だろう。

 モバイルWiMAXや3G携帯電話網は、無線LANに比べて出力が高いため、当然ながらバッテリー駆動時間は減っている。おおむね1時間分の差があることから考えると、公衆無線LANがある場所では、できる限り無線LANを利用した方が長時間使える、ということになるだろう。

 なお、USB方式と内蔵WiMAXでは、ほんの数分ではあるが、内蔵の方が消費電力が小さいようだ。この点でも、内蔵の強みが見えてくる。

 C204の場合、WiMAX内蔵のA5と内蔵しないA3の価格差は1万円程度となっている。現状でモバイルWiMAXが使える場所に住んでいる場合には、プラス1万円を払ってでも、WiMAXを内蔵しておく価値は十分にある、と感じた。

 インテルが今後、本格的に無線LANとモバイルWiMAXの共用チップの供給を続けていくとすれば、この価格差はさらに縮まり、最終的には現在の11gと11nのように、ほとんどコスト差なしで搭載が可能になっていくと予想される。通信エリアの面では、今後もモバイルWiMAXは3G系に対し不利かも知れないが、アンテナや通信カードの共有が難しい3G系の通信は、モバイルWiMAXほど低コストにパソコンへ内蔵するのは難しいだろう。

 そう考えると、「低コスト・高速」なパソコン用通信インフラとして、モバイルWiMAXが本命視される理由も、頷けるところだ。

オススメする人
・薄く軽いネットブックが欲しい人
・モバイルWiMAXのエリア内で生活している人
SOTEC C204A5の主な仕様
CPU Atom N270(1.60GHz)
メモリー 1GB
グラフィックス Intel 945GSE Expressチップセット内蔵
ディスプレー 10.1型ワイド 1024×600ドット
ストレージ SSD 32GB
光学ドライブ 搭載せず
無線通信機能 モバイルWiMAX、IEEE 802.11a/b/g/n
カードスロット メモリーカードスロット(SD/SDHCメモリーカード、メモリースティック/PROなどに対応)
インターフェース USB 2.0×3、アナログRGB出力(付属アダプター)、10/100BASE-TX LAN(付属アダプター)など
サイズ 幅257×奥行き180×高さ23mm
質量 約960g
バッテリー駆動時間 約4時間
OS Windows XP Home Edition SP3
予想実売価格 5万9800円前後

筆者紹介─西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)、「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」(朝日新聞出版)。


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