このページの本文へ

四本淑三の「テレビを捨てよ、動画サイトを観よう」 第8回

iPhoneでメロトロンが弾ける「マネトロン」作者に聞く

2009年06月21日 14時00分更新

文● 四本淑三

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

マニアが笑ってしまうほどの完成度

―― 知らずに買ってマニアックな作りに驚いていたのですが、作者を知って二度びっくり。ちょっと自己紹介してくださいよ。

山崎 山崎潤一郎*1です。音楽制作業の傍ら、IT系のメディアにも執筆しております。


―― ねえ。なんで山崎さんなんだっていう(笑)。ネットと音楽の問題をごく初期から指摘されていて、僕は興味深く拝読していました。その山崎さんがなぜこんなものを作ったんですか?

山崎 いや、なぜなんでしょう(笑)。もともとプログレ*2好きというのもあるのですが、jailbreak(Apple社の認可を受けていないアプリをインストール可能にする行為)時代のiPhoneに「iAno」というピアノアプリがあって、それで真っ先に連想したのがMellotronだったんです。


―― あまり真っ先には連想しませんけど、よほど好きなんですね。モーターや巻き戻し音まで入っていて、散々な凝りようじゃないですか。

山崎 去年冬のNAMMショーを見学して、実物のメカニカル音を初めて経験したんですね。それが頭の中に残っていて、巻き戻しやモーター音もアプリに入れようと。


―― 他にもMellotronの音源はありますが、大抵はループで音が切れないようにしてある。これは本物同様、ちゃんと7秒で音が切れるところにウケました。

山崎 音が切れる部分のノイズも入れてあるんですけど、気が付きました? チェロのF5を聴いてみてくださいよ。


―― うわーっ、ホントだ! 奏者が弓かなんかを置いた「ガタッ」っていう音まで入ってる(笑)。この音源はどうしたんですか?

山崎 全部本物を録音しました。日本のメロトロン研究で有名なTokyo Mellotron Studio*3の監修を受け、そこが動態保存しているM400Sというモデルを使っています。もちろんテープはオリジナルのライブラリのものです。

マネトロンの録音風景。テープの巻き戻しやモーター音を収録するためAKGのコンデンサマイクが立っている。左にいるのが山崎さん

DigiDesignのオーディオI/OとLogicProの組み合わせで24bit/96kHzで録音された


―― つまり正真正銘のMellotronというわけですね。

山崎 もちろん。シリアル番号714で、そのプレート画像はアプリにも入れてありますよ。

このプレート画像もホンモノ


―― ところで現状選べる音色はストリングス、フルート、チェロなわけですが、あとは……。

山崎 わかります、コーラスでしょ? 8声のコーラスが欲しいという声はありますね。将来的に他のオリジナルテープライブラリも手に入れて「MkII」という形で出せたらと思います。たとえばジェネシスの「ウォッチャー・オブ・ザ・スカイ」のイントロは、ストリングスとブラスを同時に鳴らしているんですが、それを1台で再現できるようにミックスしたものとか。

Mellotron M400Sの中身。短冊状にテープが収められている


―― またえらくマニアックなところでシリーズ展開も考えているわけですね。

山崎 はい。iPhone OSが3.0になり、アプリの中で音楽を再生できるようになるらしいんで、それに向けたマイナスワン楽曲の配信のようなことができたらいいなあと考えています。


―― いつでも好きな場所でバンドをバックに「クリムゾンキングの宮殿」が弾けると。

山崎 それができたら夢のような話でしょ?


―― いや、どうかなそれは(笑)。

*1 やまさきじゅんいちろう。本業の音楽制作では、世界の音楽配信サービス向けに日本発の音源を供給するinsideout JAPANを運営。音楽の入り口から出口まで、その裏事情も含めて知り尽くしている人。

*2 Progressive Rock(プログレッシブロック)のこと。Mellotronの音が常習的に使われるジャンルでもある。

*3 このサイトのMellotronに関する膨大な資料は、同時に70年代の音楽史としても読める。読み始めると抜けられなくなるのでその覚悟で。

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン