著作権をめぐる「2つの失敗」
例えばリミックス動画「ThruYOU」シリーズを観ればそれがよく分かる。YouTube上に掲載された動画を音声素材として使い、オーディオループシーケンサー*1のようにグルーヴを組むという、作業を想像しただけで気が遠くなる執念の作品だ。
素材はすべて「演奏してみた」系の動画や、様々なソロプレイを抜き出したもの。たとえば一発目の「Mother of All Funk Chords」でE9のコードを弾いているのはDavid Taubというギター講座のトレーナー。こういう人なら著作権がどうのと野暮なことは言って来ないだろう。その辺も含めて素材の選択は実に上手い。
著作権的には結構なチャレンジだが、こんなことが可能なら、当たり前のクリエイターなら「どんどん自分の動画を使ってくれ」という気分になるだろう。
この動画は最近になってクリエイティブ・コモンズ理事のローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig)も自身のブログで取り上げ、また話題になっている。
これを作ったKutiman(Ophir Kutiel)は現在27歳。エルサレム生まれのイスラエル人ミュージシャンで、オリジナルアルバム「Kutiman」はiTunes StoreやAmazonでも手に入る。アフロファンクのグルーヴに時折エキゾチックなラインが乗ってくる作風が特徴で、「ThruYOU」もその延長上にある。
もうひとつ最近注目を集めているのが「In Bb 2.0」という参加型のコラボレーションだ。ぜひエンベッドされている動画を全部再生して欲しい。多数の演奏動画が重なって聞こえる様を、ある人はシガー・ロスのようだと言い、ある人はスティーブ・ライヒみたいだと言う。ともかく原始的な方法にも関わらず、音楽的に高い効果を上げているのが素晴らしい。
In Bb 2.0はニューヨークを拠点に活動するハウスユニット、Science for GirlsのDarren Solomonが始めたプロジェクト。彼はBフラットというキーを決め、ガイドトラックを作り、その他いくつかの指示を用意しただけ。エンベッドされている動画はいずれも指示を守って演奏したもので、それぞれ住んでいる場所も音楽的バックグラウンドもバラバラだ。
ここ数日で動画の数が増え、一度に再生するのが厳しいくらいの量になってきたが、日本からの参加者もいて身近に感じられるのが嬉しい(KORG Electribe MX-1で参加しているのは、実はニコニコ動画で「都会の猿人の人」として知られている方だ)。参加したければ、動画をYouTubeにアップロードしてDarren SolomonにURLを送るべきだ。
ここで最初の話に戻ろう。地デジカの失敗は、著作権を理由にこうしたコラボレーションやマッシュアップの機を逸したばかりか、アナログマという強敵を登場させてしまったことにある。アナログマは核実験によって生まれたゴジラのようなものだ。
地デジカの担当者は意図しない使われ方が許せなかったのだろうが、著作権は「著作者の権利を守る」だけのものではない。コンテンツを不動産のように操作して生まれる利益もある。その利益分配システムを守ることが「著作権を守る」という大義になっている。
地デジカはあくまで「宣伝用」のキャラクターであり、それがコピーされようが、二次創作されようが、利益とは直接の関係がない。むしろ本来の目的から言えば平和裏にコピーされることで宣伝効果が上がった可能性すらある。
それを潰してしまったのは「著作権を守る」という、若干世間とはズレた常識を持った人々の、長年の癖というか、脊椎反射のようなものが原因だろうと私は思う。
*1 オーディオループシーケンサー: 楽曲内のあるフレーズを切り出した「ループ」と呼ばれる音声素材をペーストして楽曲を作るソフトのこと
四本 淑三(よつもと としみ)
1963年大分県生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科講師。高校時代に音楽雑誌へ投稿を始めたのを契機に各種のコンテンツ制作や執筆作業に関わる。去年は動画サイトに上げたKORG DS-10の動画がきっかけで、KORG DS-10の公式イベント「KORG DS-10 EXPO 2008 in TOKYO」に参加。その模様はライブ盤として近日リリース予定。
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