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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第63回

コンテンツ産業は日本を救うか

2009年04月15日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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政府はコンテンツに口を出すな

 日本の製造業に元気がない中で、アニメやゲームが世界市場で成功を収めていることは事実だ。しかしその原因は政府が保護・育成したからではない。逆に、こうした子供向けの娯楽は官僚の視野に入らず、保護も規制も行なわれなかったからだ。

 1980年代前半、通産省(当時)が情報産業でもっとも力をいれたのは、“第5世代コンピューター”などの人工知能だった。当初は1000億円の予算を計上し、日本のコンピューターメーカーから技術者が集まって共同開発を行なった。世界の注目を浴びて「自動車・家電に続いて日本企業が世界を制覇する」と恐れられ、各国で同様の官民による人工知能の開発プロジェクトが作られた。

 その頃、私は任天堂の「ファミリーコンピュータ」を取材したことがある。「スーパーマリオブラザース」を開発したのは、宮本 茂さんという若いデザイナーだった。当時のゲームの多くを開発していたのは、大学をドロップアウトしたオタクだった。ドラゴンクエストを開発した堀井雄二さんは「僕って大きくなったら何になるんでしょうか」と言っていた。ファミコンには補助金も出ないばかりか、情報機器の統計にも入らない「玩具」だったのだ。

 それから20年以上経った。第5世代コンピューターは跡形もないが、ファミコンはWiiなどのゲーム機に発展し、任天堂は世界企業になった。宮本さんは専務になったが、今でもゲームを開発している。コンテンツというのは、芸術的なセンスや自由な発想が大事な分野である。新しい作品が当たる確率は1割以下で、その数少ないヒットの収益で残りの9割の損失を埋めるビジネスだから、クリエイターが自分のリスクで、自分のセンスを信じて開発を行なうしかない。役所が推薦するようなコンテンツが成功した試しはない。

 かつて経済学者ミルトン・フリードマンは「政府の補助は死の接吻だ」と述べた。政府がコンテンツ産業に補助金を出して「育成」することは、一時的には産業を潤すかもしれないが、長い目でみるとコンテンツ産業の自由なエネルギーを殺してしまうだろう。コンテンツ産業が発展するためにもっとも重要なのは、政府が余計な口出しをしないことだ。


筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「情報技術と組織のアーキテクチャ 」(NTT出版)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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