次期Mac OS Xの “Leopard(レパード)”は、米アップルコンピュータ社にとってWindows系OSに一大勝負をしかけるチャンスとなる。
最近では次期Windows“Windows Vista(ウィンドウズ ビスタ)”の完成が遅れに遅れていることもあり、Windows系のジャーナリスト達も、話題を求めてMacを扱い始めている。特に『Boot Camp(ブートキャンプ)』や『Parallels Desktop for Mac(パラレルズデスクトップ)』の登場以降は、Windows系メディアも積極的にMacを紹介するようになった。
この流れを維持したまま、一般ユーザーたちも一気にMac OSに取り込めるかどうか――Leopardはそうした重要な役割を担っているのだ。
米国時間の7日に開かれたWWDCの基調講演ではLeopardの紹介が目玉となったが、その前にちょっとした余興が用意されていた。
アップルのスティーブ・ジョブズCEOと、ソフトウェアエンジニアリング上級副社長を勤めるベルトラン・サーレー氏の2人が、現行OSのMac OS X“Tiger”とWindows Vistaをさまざまな角度から比較したのだ。以下、アップル流ジョークを交えたプレゼンテーションの内容をまとめていこう。
【ラウンド1】進化のスピード
まずはジョブズ氏が、OSとしての進化のスピードを比較した。
アップルは、この5年間で5つのOSメジャーアップデートをリリースした。Mac OS Xの最初のバージョン、"Cheetah(チーター)"が登場したのは、今から5年前の2001年3月だった。
その後、同じ年の秋にはMac OS X 10.1の"Puma(ピューマ)"を、2002年にはMac OS X 10.2の "Jaguar(ジャガー)"を発表。2003年にはMac OS X 10.3 "Panther(パンサー)"、2005年にはMac OS X 10.4 "Tiger(タイガー)"という内訳だ。
アップル社内のエンジニアは、実はこれらに加えてもう1つのOSを完成させている。Intel Mac版のMac OS X "Tiger"だ。「見た目も機能も、PowerPC版にそっくりでほとんど区別がつかないが、構成が違うCPUでここまでの互換性を持たせるのはとても難しいことだ」とジョブズ氏は語り、「われわれは実質、5年間で(Mac OS Xの)6つのメジャーリリースを出したことになる」と続けた。
「それではわれわれの競合は、これまでどうしていたのだろう?」ジョブズ氏がこういうと、スクリーンにWindows Vistaのロゴが現れる。
ジョブズ氏が「名前こそいろいろあったが、彼らは、これまでずっとただ1つのOSの開発に専念してきた。このOSがMac OS Xと比べてどうなのかはベルトラン・サーレーに紹介してもらおう」というと、サーレー氏が登場する。
背景のスクリーンには歴代Mac OS Xのインストールディスクが映し出された |
【ラウンド2】OSの外観
サーレー氏は壇上にあがると、昨年のWWDCの会場の様子を映し出した。
「昨年、われわれがWWDCの会場に掲げた横断幕の1つに“Redmondよ、複写機を始動させよ!”というものがありました(Redmondはマイクロソフト本社の在所)。これまでMacの真似をしてきたマイクロソフトに対してのジョークのつもりだったのに、マイクロソフトはこれを真剣に受け止めてしまったようです」と微笑みながら話を切り出すと、場内は爆笑の渦に飲み込まれた。
2005年のWWDC会場に掲げられた『Redmond, start your photocopies.(Redmondよ、複写機を始動させよ!)』の横断幕 |
サーレー氏は「現在のMac OS X“Tiger”の典型的な画面と、Vistaの最新ベータ版の画面を比較してみましょう。どうです、似ているでしょう?」と聴衆に呼びかける。
TigerとVistaは、そういえばメールソフトの外観も、後ろに表示されたカレンダーソフトも、画面の下に並ぶアイコンもどことなく雰囲気が似ている |
【ラウンド3】デスクトップ検索
「次に『Spotlight』機能をみてみましょう。Spotlightを使えば、ローカルの情報を簡単に検索できるようになります」とサーレー氏は続ける。Spotlightでは、画面の右上に表示されるメニューに検索語句を入力すると、すぐに結果一覧が現れる。ファイルだけでなく、メールやアドレス帳の中身も検索できる。
「Spotlightは革新的な機能でした。しかし、われわれがこの機能を出した後、彼ら(マイクロソフト)も、ものすごく革新的なことを考えつきました」サーレー氏はそう語りかけたあと、イタズラっぽく微笑みながら「なんと、検索用のメニューを画面の右上ではなく、左下に表示することにしたのです」と言ってWindows Vistaのベータ版の画面を表示した。
Tigerでは右上にある検索ウィンドウが、Vistaではなんと左下に! |
【ラウンド4】RSS対応タブブラウザ
サーレー氏は、Mac OS Xのもう1つのイノベーションは、そのウェブブラウザーにあると紹介。ニュースサイトなどの最新記事を簡単に収集/閲覧できる“RSSリーダー”機能を統合した『Safari RSS』のことだ。
サーレー氏は「もう、みなさんおわかりでしょう。“IE 7 RSS”です」と語る。マイクロソフトが最近、披露した『Internet Explorer 7』はタブブラウジングとRSS購読機能を大きな目玉としている。さらにサーレー氏は「RSS情報の表示レイアウトや、右側に用意されたフィルタ検索用のボックスがある点などもそっくりそのままだ」と驚いてみせた。
『Safari』と『Internet Explorer 7』でRSSリーダー機能を比較 |
【ラウンド5】メールソフト
「Windowsのメールソフトは、長らくカレンダー機能やら何やらといろいろごちゃごちゃとくっついたプログラムだった。Vistaではこれもシンプルに変わる」とサーレー氏。Mac OS X付属の電子メールソフト『Mail』も、その名が表すようにシンプルで、かつ使いやすいデザインと数々の優れた機能を備えている。
メールソフトの比較。メッセージリストやメッセージ本文の表示位置が似ている |
【ラウンド6】カレンダーソフト
アップルは、スケジュール管理には『iCal』という個別のソフトを用意し、OSの一部として提供してきた。
サーレー氏が「お分かりでしょう」と言うと、スクリーンにはWindows Vistaに付属する新アプリケーション『Windows Calendar』が映し出される。サーレー氏は「なんと、彼らは色づけ時のカラーコーディネートの仕方までコピーしています……が、まだイマイチわかっていないところがあるみたいですね」と皮肉る。
カレンダーソフトの比較。スケジュールデータの配色が似ている |
「Aquaに包まれていても中身はWindows」
「これはWindows Vistaのロゴです。Windowsのマークを、美しい“Aqua”(水)の泡でくるんだ美しいロゴにも見えますが、水の泡の下は相変わらずのWindowsそのままなんです」とはサーレー氏の発言。ちなみに『Aqua』はMac OS Xのユーザーインターフェース外観の名前だ。
水の泡で包まれたWindows Vistaのロゴ |
「Vistaはそのまま」--サーレー氏はWindowsの構造上の問題をいくつかあげつらう。「レジストリーも健在だし、DLLも残っている。そして面倒なアクティベーションも存在する。イノベート(革新)できないなら、イミテート(模倣)するのは、それはそれでいいのかもしれない。でも、そんなものは決して本物のよさにはかなわない」。
「VistaにもDLLが残っている」 | 「アクティベーションも存在する」 |
サーレー氏がそう語ると、スクリーンにはエルビス・プレスリーの物まねをする人の写真が映し出された。サーレー氏はスピーチをこう締めくくった。「Vistaはマイクロソフトにとって“未来”かもしれないが、われわれにとっては“過去”だ」。
マイクロソフトを皮肉り、スクリーンにはエルビス・プレスリーのモノマネをしている人の写真が映し出された |
WWDC会場にはユーモアあふれる横断幕も
マイクロソフトが、本当に昨年のWWDCの横断幕を見てMac OS Xの“真似”を始めたのかどうかはわからないが、今年の会場に掲げられた横断幕もパンチが利いている。
“Introducing Vista 2.0”――“Web 2.0”は今年の流行語大賞にのりそうな勢いで人々の間に広まり、最近、いろいろなものが“~ 2.0”と呼ばれている。この横断幕は「Mac OS X Leopardこそが、Windows Vistaの2.0」というシャレだ。
“Introducing Vista 2.0”の横断幕 |
“Richmond has a cat, too. A copycat.”――日本では“猿真似”と言うが、こちらでは“物まね猫(copycat)”という表現がある。Mac OS Xは、これまでずっとネコ科の動物の名前を開発コードネームに採用し続けてきたが、それにひっかけて「Redmondには猫がいる。物まね猫だ」という意味の横断幕。
“Richmond has a cat, too. A copycat.”の横断幕 |
“Hasta la vista, Vista.”――“Hasta la vista(アスタ・ラ・ビスタ)”はスペイン語での別れの挨拶。映画『ターミネーター2』でアーノルド・シュワルツネッガーが使ったことで、米国でも一般的になった。Windows Vistaの名前にひっかけて、正式リリース前に“Vistaにおさらば”してしまおう、ということか……。参加した開発者の多くは、この余興を十分に満喫していたようだ。
“Hasta la vista, Vista.”の横断幕 |