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音楽配信の現在を総復習

音楽配信の現在を総復習

2005年09月01日 08時51分更新

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 米アップルコンピュータ社が4日に開始した日本版の“iTunes Music Store”。

ジョブズ氏
iTunes Music Storeの発表会に登場した米アップルのCEOスティーブ・ジョブズ氏

 その概要はすでにASCII24でも紹介しているとおり(関連記事1関連記事2)。その特徴は、

  1. 100万曲と国内最大規模のライブラリー
  2. 中心価格150円(一部200円)と比較的手ごろな価格設定
  3. ユーザーの使い勝手や所有感に配慮した著作権保護技術“FairPlay”
  4. プレイリストを公開出来る“iMix”など豊富な機能
  5. Macintoshに対応している点
  6. iTunesとの統合により、ライブラリーやiPodとの連携が容易

──などが挙げられる。

iTMS
iTunes Music Store。アップルが無償配布している『iTunes』のみからアクセスできる

 アップルコンピュータは、サービス開始後4日経過した8日に「100万曲をダウンロード販売した」と発表しているが、参加レーベル数で国内最大規模の配信サイトであるレーベルゲート(株)の“Mora”の月間ダウンロード数が30~40万曲台。iTMS登場以前では、もっとも楽曲を多く配信していた“着うた”フルでも100万ダウンロードを達成するのに2004年11月の開始から2ヵ月弱(6月15日に1000万ダウンロードを発表)かかったことを考えると、驚異的な数字と言える。





iTMSを受け、国内の音楽配信他社も活性化?

mora
参加レーベルの多さでは国内一となる“mora”

 しかし、iTMSの国内サービス開始には多大な困難があったことは容易に想像できる。2003年4月に米国でのサービスが開始されてから国内のサービスが開始までには実に約2年4ヵ月の歳月を要し、全世界では20番目と他国に大きく遅れた。

 国内での有料音楽配信は、1999年9月に(株)ミュージック・ドット・ジェイピーの“Music.jp”がMP3による音楽配信を開始。レーベル会社の(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)も同年11月にATRAC3を採用した“bitmusic(ビットミュージック)”を開始した。2000年4月にはSMEやポニーキャニオン(株)など12社が参加するレーベルゲート(株)が発足(関連記事1関連記事2)。以降、国内の有料音楽配信サービスはレーベル会社が中心になって行なわれてきた。しかし、これらは必ずしも成功したとは言えない。がんじがらめの著作権保護や1曲300円程度という高価な価格設定に加え、曲目も制限されていた。さらにはCCCDと呼ばれるパソコンでリッピングできないCDの販売が行なわれたり、音楽ファンが多いと思われるMac向けの配信も行なってこなかった。

 国内の音楽配信サービスに対してアップル(iTMS)の功績があるとすれば、中心価格150円(ただしアルバムの価格はレーベル会社判断)という比較的手ごろな料金設定とユーザーの使い勝手にも配慮した著作権保護技術“Fairplay”での配信という条件を“閉鎖的”と言われるレーベル会社に飲ませることで、権利者よりも使い手に近い視点でのサービスを展開できた点が挙げられる。FairPlayでは同時に5台のパソコンまで楽曲をダウンロードして保存できるほか、CD-RやiPodへの転送は無制限。iTMSのサービス開始後、同サービスに参加したレーベル会社を中心に料金改定と配信ルールの制限緩和が行なわれ、“Mora”や“MusicDrop”で配信されている楽曲の一部はiTMSと同一価格でダウンロードできるようになっている。





シラー氏
アップルNo.2のフィル・シラー氏

 iTMSに今後改善を期待したい点を挙げるなら、サービス開始直後から100万曲をライブラリーするというiTMSだが、現在参加している15のレーベル会社が明確にはなっていないところが不満だ。avex trax、東芝EMI、GIZAといったメジャーレーベルが参加している一方で、Sony Music、ポニーキャニオン、Toys Factory、ワーナー、BMGファンハウス、キングレコードなどの著名レーベルは不参加。ユニバーサルミュージックや日本コロムビアは楽曲を提供しているものの、アーチストによって判断が異なり、“様子見”といった雰囲気がある。これらをいかに口説き落として、楽曲数を増やしていけるかが、さらなる普及・ユーザー数の拡大の鍵を握っている。

 また、音楽のダウンロードに専用ソフト『iTunes』のインストールが必須な点や、ダウンロードした楽曲を転送できるプレーヤーが“iPodシリーズ”に限られてしまう点も、アップル以外の携帯音楽プレーヤーを使用しているユーザーにとっては不満を感じる部分かもしれない。販売戦略上、iPod以外のプレーヤーをサポートすることは考えにくい(米アップルの上級副社長フィル・シラー氏も“その意向がない”ことをインタビュー中に語っていた)が、店頭にはiPod以外にも数多くの国産プレーヤーがあり、音質やサイズ、バッテリー寿命などで有利な製品も多い。これらのプレーヤーで音楽配信を楽しむためには、別の配信サービスが“iTMS並みの価格と使い勝手”を実現する日を期待するしかない、というのでは余りに悲しい。



音楽配信とCD販売は区別する必要がある

iMix
お気に入りの曲をリコメンドできる“iMix”

 iTMSのサービスは、他社が提供する音楽配信サービスにも確実に刺激している。CDショップに足を運ばず、自分の好きな曲をいつでも1曲単位で購入できるサービスは確かに魅力的だ。今後はレーベルメーカーも(iTMSに参加するかどうかは別として)音楽配信というビジネスに積極的に取り組まざるを得ないだろう。

 しかし、仮に音楽配信が普及しても、現在の状態が続く限り、個人的には音楽CDを購入したいと考える層は存在しつづけると思う。圧縮音源は音質的に明らかにCDに劣るし、CDのパッケージに直接手に触れ、それを所有できるという部分に価値を見出す人は必ずいるし、ダウンロードした音楽でも本当に気に入った曲なら改めてCDで持っておきたい(コレクションしたい)と考えるユーザーもいるだろう。だからこそ、配信サイトやレーベル業者はユーザーの感覚や利便性を考えて、より多くのユーザーが“一度は聞いてみよう”と思えるようなサービスや製品の提供方法を考えることが重要になる。

 アップルのシラー氏は「ユーザーの大半は“デジタルミュージックライフスタイル”を実現する上で“法律上安心できる”ことを望んでおり、そのためには喜んでお金をはらってくれることも分かっています」と語っていた。多くのユーザーは手軽かつ安価に音楽を入手できるなら、わざわざ著作権を侵害するようなことはしない。音楽配信は音楽ビジネスを拡大することはあっても、妨げることにはならないだろう。人が多く集まり、客層もよい“優良店舗=iTMSのようなユーザビリティーのいい配信サービス”に“商品=楽曲”を卸さずにビジネスチャンスをむざむざ逃すことは、レコード会社だけではなく、その曲を作ったアーチストや、その曲を楽しむユーザーにとっても不利益になる点は肝に銘じてもらいたい。



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